「あら、あまり驚かないんですわね。」
貴時の様子を見ながら、エデン母がそんな事を言う。
エデン母とは面識は無いが、この女性が誰なのか、大体の予想はつく。
また、包帯を全身に巻きつけた男は、当然ながら貴時が殺したはずのエデン父だ。 その異様な出で立ちに、命と桐子は萎縮してしまったが、一番驚かなければならないはずの貴時は平静なままだった。
「そいつの心臓が動いているのは見ていたからな。」
そう、
エデン父の剥き出しの内臓に、ペイント弾を撃ち込んだ後、貴時は倒れたエデン父を暫く見下ろしていた。 その時に、まだ心臓が動いているのを確認していたのだ。
「それより何の用だ?俺に仕返しでもしに来たか?」
「そう思うのでしたら、何故トドメを刺さなかったんですの? 殺しておけば、そんな危惧もしないで済んだでしょう?」
「......」
からかうような口調で言ったエデン母の言葉に、貴時は何も答えず、そのまま黙り込んだ。
確かに、後々の憂いを絶つという意味では、エデン父を殺しておくべきだったといえる。 そんな事は充分過ぎる程解っているのだが、それでも貴時はトドメを刺す気にはならなかった。
「...私が、家族の居る大部屋へ帰る途中、 金髪の大きな人が倒れてましてね。 簡単な治療している間に全て聞きましたわ。」
金髪の大きな人、皇金の事だ。
黒い瞳の発動の時、鳳仙屋敷は大きく震えた。
その振動に不安を覚えたエデン母は、重い体を引き摺って家族の待つ大部屋に戻ったのだが、その途中、皇金を見つけたのだ。
どうやら、皇金は生きてはいるらしい。
「高森夕矢さんという方が、マルキーニを病院に連れて行って下さったんでしょう?」
貴時との戦いにより、ボロボロにされてしまったエデン父は、あと数時間以内に確実に死ぬ。
元々、永くは無いと思っていたエデン父の生命。今更、貴時や陸刀ヒットマンを仇と考えるつもりは無い。
それどころか、マルキーニを病院に連れて行ってくれた事に対し、感謝さえもしていた。
「... 人間強化剤の副作用で立っているのも辛い私では、旦那様が死んだ後、マルキーニを時間内に病院まで連れて行くのは無理だったでしょうからね。」
「副作用とか時間内とか、何のことだか解らねーけどな。 こなん所で油売ってないで、さっさと娘の所へ行ったらどうだ? 直ぐに向かえば、一目ぐらいは見れるだろーぜ。」
独り言のつもりだったエデン母は、少し驚いたような表情を見せた。
詳しい事情を知らない貴時ではあるが、エデン父がもう永く無いのは、戦った本人だから尚更よく解る。 そして、その短い時間の使い方は、一目自分の娘の無事を確認するのが一番良いだろうと考えたのだ。
なんとなく、そんな貴時を"いかにも皆月京次の息子"と感じながら、エデン母はりっこりと笑った。
そして、視線を倒れた皆月京次に移し。
つ