クレイモア

屑男 撲滅抹殺委員会!

−前へ歩く−

 思いがけない台詞に呆気に取られてしまった貴時を尻目に、エデン母とエデン父は、貴時と桐子の間に割り込んだ。

 そして、二人して身を屈め、京次の傷Iの程度を探る。

「...」

 エデン父に残された僅かな時間。

 その時間を使って、娘のマルキーニに、最後に一目会いたいという願望は、確かにある。

 しかし、マルキーニが公共の場である病院に連れて行かれた今、そこから情報が漏れ、近い内に大国の組織が襲ってくるのは確実。

 『エデン父の死後、エデン母一人だけで退けるのは不可能。』

 そう考えた時、エデン母の頭に浮かんだ皆月京次という男。

 直接戦って、その戦闘力を体感し、言葉を交わして、その人間性もよく理解できた。 また、京次の周りには、雪之絵真紀を筆頭に、戦闘能力に長けた人間が多数存在している。

 すなわち、皆月京次を得るという事は、京次を慕う仲間も得られるという事。

 ...。

この皆月京次という男の協力を得るには、このチャンスを逃す訳には行かない。 

.。

「ほ、本当に救えるのか!?」

「あら、」

「私の旦那様は、この方よりも、遥かに酷い怪我で生きてますわよ。」

「まず、心臓から脳に繋がる血管以外は、その弁を閉じます。」

「今、動かす必要のある場所は、心臓と横隔膜だけで良いですわね。」

「!!」

 次の瞬間、京次の胸が軽く上下し始めた。

 流石に、それを見ていた全員がどよめいた。 物事に動じない貴時も、雪之絵真紀でも例外では無い。

 京次の白かった顔に赤みが戻り、呼吸の音も聞こえる。

まるで、寝ているかのような姿である。

「不幸中の幸いでしたね。 かろうじて心臓を外れてます。 幾つかの臓器を損傷してますが、、、まあ、三分の一ぐらいなら壊れても大丈夫でしょう。」

 エデン母の言う通り、不幸中の幸いであった。

 元々、黒い瞳は、雪之絵真紀の心臓へ目掛けて手刀を発射していた。 そこに、雪之絵よりも背の高い京次が身代わりになった為、京次の心臓の下を貫いたのである。

 唯一、横隔膜を破壊されているので、呼吸ができないのを心配されたが、

「横隔膜は筋肉。 流石この方は鍛えられてますわね。まだ動きますわ。」

 安心したように笑った後、今度は桐子に向けて指示を出す。

「さあ、今のうちですわ。早く傷口を塞いで下さいね?血の流れを止めている場所が腐ってしまいますから。」

 既に全力で呪術を行っている桐子は、疲労を隠せなかったが、それでも強く頷いた。

「それと輸血が必要ですわね。この方の血液型は何です?」

 きゅっ、

「私と同じA型。私のを使って!」

「流石は娘さんですわね。」

 そう言った後、貴時に視線を向ける。 娘が同じ血液型なのだから、息子もそうではないかと思ったのだ。

「...確かに俺もA型だが、俺は親父に血をくれてやる気はねーよ。」

「あら、」

 予想外の答えだったのか、エデン母の貴時を見る目が冷ややかなものに変わる。

「じゃあ、他に誰かA型の人...」

「いい!!私のを全部使ってもいい!!」

 命がエデン母の言葉を遮るように叫んだ。

 しかし、現実問題、A型なら貴時以外にも誰かいるだろう。別に命に危ないマネをさせる理由は無い。

「いえ...でも、私としては、あなたに死んで頂く訳には行きませんし。」

「おい、」

 突然、会話に割り込んだ貴時は、自分の声が命に聞かれないように、エデン母の耳元に口を近づる。

「命姉さんの血が足りなくなったら、俺の血を命姉さんに輸血しろ。」

「は?」

「また何でそんな面倒な事を。直接お父さんに輸血すれば良いでしょうに。」

「...それじゃ、意味ねえんだよ。」

 先程、貴時は、皆月京次を殺す芝居をして見せたが、しかし、あんな演技に騙される程、命も馬鹿では無い。

 ならば、命の心の傷を癒すには、『命は、自分の生命を使って京次を救った。』という事実が必要なのだ。


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