「お、お前...」
若干遅れてこの部屋に辿り着いた皇金が、予想外の貴時の行動に珍しくうろたえている。
「お前の目的は、この女だろ? 早く連れて行けよ。」
「......」
「どうした?早くうせろよ。 雪之絵真紀が来たら、この程度じゃ済まないだろうぜ。」
その言葉に、皇金はハッと我に帰る。
貴時と皇金の二人が、誰よりも先にここに辿り着いたのは、実は偶然だった。
『皆月京次は、玄関方面から命姉さんを探しているはず。 だから俺達は、逆に屋敷の一番奥から探して行こう。』
その貴時の提案を飲んで行動したら、屋敷の一番奥に命とアケミが居たという訳だ。
しかし、こうしている間も『黒い瞳』は凶凶しい殺気を大量に放出している。 この殺気を便りにして、雪之絵真紀と皆月京次も、近い内にやって来るだろう。
陸刀のヒットマンとして、雪之絵真紀の恐ろしさを知っている皇金は、黙ってアケミを担ぎ上げた。
そして、そのまま歩いて部屋を出る寸前、足を止めて視線だけを貴時に向けた。
「...お前一人で、本当に良いのか? 一人で、アレ(黒い瞳)をどうにか出来るとは、とても思えんが。」
「いいさ。 どうせお前が居た所で、どうにもならないだろう?」