貴時の改造拳銃はゴム弾に変えてある。 殺傷能力こそ無いが、直撃すれば骨ぐらいは持っていける。 そして何より、鉛弾に比べゴム弾は軽く、初速に優れているというトカレフ銃と同じ利点があった。
「その弾丸を避けながら、なお且つ間合いを詰めて来るなんてな。 エデンの父親でも出来なかったぜ。」
ギュウ
「!」
距離を詰めた『黒い瞳』の本体が、そのまま攻撃して来ると思っていた貴時は、完全に虚を突かれた。 しかし、悪霊達は貴時に取り着く前に、その動きを止めた。
まるで見えない壁に阻まれたかのように。
「どうやら、役に立ったようだな。」
ニヤリと笑ってそう呟いた貴時自身も半信半疑だったらしく、その言葉には若干安堵の色が含まれていた。
本体を初め、薄らぼけた悪霊達の視線が、貴時の上着のポケットに注がれた。
実は数日前、貴時は近くの神社に忍び込み、建物に貼ってあった”御札”を、片っ端から剥いで持って帰ったのである。
御札は沢山の種類があり、何の用途で使われる物なのか全然解らなかったが、どうやら、その中のどれかが、悪霊に対し有効だったらしい。
悪霊には有効でも、生身である『黒い瞳』本体は別。
それを証明するかのように、『黒い瞳』が動き出した。 しかし、行動の開始は貴時の方が速かった。
踏み出す前の『黒い瞳』の鼻面に、小瓶のような物を投げつけた。
「!!」
マグネシウムと酸素を使った発光弾。
これも手作りなので、さして強い光を発せられるものでは無いが、薄暗い部屋に慣らされた眼には相当効いたようだ。