トン、トン、トン、トン、トン、
ちん、ちん、ちん、ちん、ちん、
軽快とは言えないが、一応整った包丁を使う音が台所に響く。 怪我した左手を庇いながらの料理にしては、中々の手際と言えるだろう。
満足に生活出来る程体調の整った自分に満足した皆月京次は、再び包丁を使う。
トン、トン、トン、トン、トン、
ちん、ちん、ちん、ちん、ちん、
「腹減った、何でもいいから食べさせろ。」
「だからって、直接催促するのも止めてくれ。」
とりあえず、冷蔵庫の中からチーズを与え、再び料理に取り掛かる京次。
「パパーっちょっといいー?」
玄関から命の間延びした声が聞こえて来た。
京次は今、夕食の準備の最中だ。 命が学校から帰ってくる何時もの時間である。
「命、おかえり。」
「へへーっ、ただいまっパパ。」
「それより、タケ子が泊りに来たいって言うんだけど、いいかな?」
「ん?」 京次が料理中の腕を休めて振り返る。
「ホラ、私がタケ子の所へ行くのは駄目って言ってたから。 その逆なら良いのかなって思って。」
「ああ、そうだな、それなら問題ないか。」
少しだけ考えてみたが、特に問題は無いと認めた京次があっさりと答えた。 いや、問題ないどころか、詩女が来る今日、タケ子に命の相手をしてもらえるなら大歓迎だ。
「そっか、良かったっ。 タケ子一旦寮に戻ってから来るって言ってたから...」
この時、ピンホーンとチャイムが鳴った。 続いて聞こえる「ゴメンくださーい。」との女の子の声。
京次も聞いた事がある。間違いなくタケ子の声だ。
「早っ、もう来た。パパがオッケーだって!上がっておいでよ!!」
命の言葉の後、程なくしてオシャレしたタケ子が現れた。
「ああ、」 命が、今更思い出して手をポンと叩く。
タケ子は、サラが学校に攻め込んだ時に被害を受けた当事者である。 サラとの生活に馴染んでいた命は、すっかり忘れていた。
「何でこの女がここに居るのよ!!」