「まあ、色々あったが、現在のサラは絶対危険じゃないから。許してやってくれないかな?」
タケ子に向かい合うようにテーブルについている京次が、余裕のある笑みを浮かべる。
「命も、俺の意見に賛成だよな?」
突然振られた命は、少しだけ驚きながらも、ちゃんと肯いた。
「狂暴だけど、危険じゃない。」
素直になれない命は、自分の事を棚に上げるような悪態をつく。
「...まあ、命がそう言うなら、」
「そうか、ありがとう。」
京次の、自信から来る余裕のある笑顔。
タケ子は、いかにも命に従ったかのように言ったが、本当は、京次の笑顔に二の句が告げられなかっただけだ。
この笑顔を見れば、命が京次から離れられない理由も納得出来る気がする。
しかし、経験から来る余裕の笑みなど、世間知らずなタケ子が真似出来るはずもなく。 それを思うと、恋敵として全然及ばない自分を強く意識する。
「...命、部屋に行こう?」
悔しさを滲ませながら、タケ子が立ち上がった。
「あ、うん。 じゃあパパ、私鬼嫁詩女が来ても顔出さないし、帰るまで部屋から出ないから。」
タケ子の隣に座っている命も、急いで立ち上がる。
「ああ、それで食事はどうする?」
京次に問いに、命とタケ子が顔を見合わせる。 若干二人の顔に赤みが差した。
「...いい、お腹すいたら、勝手に何か食べるから。」
正直、今からの行為を思うと、期待と緊張で食べ物など喉を通りそうもない。
「そうか、じゃあ風呂はどうする?」
何気ない京次の一言に、命とタケ子は本格的に顔を赤く染めた。
「は、入るかも...後で。」
「そうか、じゃあ沸かしておくよ、好きな時に入るといい。 そうだ、タケ子ちゃんも命と一緒に入るといいよ。」
京次に他意は無い。 それが解っていても、今の言葉に二人は焦らずにいられなかった。
「いっ、行こう!?」 耳まで赤くなったタケ子が、命の腕を引っ張り歩き出すと、命もよろけながら後を付いて行く。
「そ、それじゃ、私達行くから!」
負けず劣らず顔の赤い命が、手を振りながらリビングを後にする。
続いて、ドタ、ドタ、ドタ、と、何やら慌てた様子で遠ざかる二人の足音。
「...?」 何も解っていない京次とサラは、首を捻りながらお互いの顔を見合わせた。
命の部屋は、右へ折れ曲がった廊下の一番奥にある。 その隣は、手に怪我をする前の京次が寝室として使っていたのだが、最近はサラの寝室である。
「...それじゃ夕食の後、サラも、客が帰るまでは奥の部屋で大人しくしててくれるか?」
「それより聞きたいんだけど、何で加渓の事をタケ子って呼ぶの?」
「?...陸刀タケ子が、本名だろ?」
「...違うわよ。陸刀加渓が本名。」