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高森や陸刀ヒットマン達は、お望み通りマルキーニに集中していたが、貴時だけは、明後日の方を見ていた。
今だ騒いでいるマルキーニを無視し、部屋の中から湧いて出た、動く屍達を見つめている。 先ほど、小さな女の子を部屋に引き込んだ腕の持ち主は、この中にはいない。
「死体を操るって...」
皇金の言葉を聞いて、今だ常識から抜け出せない高森が青くなる。
「静電気を死体の神経へ飛ばし、自在に操っているのさ。」
「あのチビの側に近寄ったら、たえず動いていろよ? そうすれば、動きを封じられる事もない。」
陸刀ヒットマン達は、以前、動かずに座っていたカズ子が、マルキーニの静電気を受けて動きを封じられた事を、アケミから聞いている。
何の話なのか高森には解らなかったが、”たえず動き続ける”これこそが、その対処法なのだ。
次々と、客間の中から現れる動く死体は、それが自分の意志であるかの様に、マルキーニの周りに集まって行く。
マルキーニの姿も、”死体”で出来た人垣に隠れて見えなくなってきた。 エデンの住む客間の中には、どれだけの死体が存在するかは知らないが、このまま指を咥えて見ていても死体の数は増える一方だろう。
「相当厄介な相手だ、お前達は後ろで見ていろ。」
貴時と高森に向けて、そう告げた皇金が前に出た。
他のヒットマン達もそれに続くが、世界でも有数の殺し屋”エデン”に勝てるという自信はまったく無い。 自分の横を通り過ぎて行くヒットマン達の決死の表情を見て、高森にもそれが解った。
高森の視線に気が付いた貴時は、面倒臭げに口を開く。
「...鳳仙家と戦うのが一番相応しいのは、陸刀のヒットマン達だと思ってる。 だから、連中が見てろと言うなら、俺は見ているさ。」
そう無表情で答えた通り、元々貴時は、陸刀のヒットマン達と協力するつもりも無ければ利用するつもりも無い。
姉の命を狙う敵を調べる内に、アケミや、陸刀家ヒットマンの存在を知った貴時。
今回、貴時が正確な情報を彼等に伝えたのには、何の打算も無い。
初めに屋敷を揺るがせた爆発は、鳳仙家の門を破壊する為に、たった一つ陸刀ヒットマンが用意した物。
『屋敷の敷地、至る所に爆弾を仕掛けた。』と言う貴時のハッタリに陸刀ヒットマンが乗ったのも、正確な情報を無償で提供してくれた恩に報いたのである。
「だが、あんたが、俺や陸刀の連中に従う必要はない。」