画面の向こうにいる貴時が手を持ち上げると、その手には拳銃が握られていた。
とたんに、テレビの画面が砂嵐に変わる。
銃声が響く前に、弾丸が監視カメラに命中し、破壊されたのだろう。
「ふ...あの正妻(詩女の事)の子供にしては、随分面白く育ったものね。」
貴時という予想外の人物の登場に、今まで成り行きを見守っていた雪之絵真紀が、彼らの話が一段落ついたのを見計らって、京次の肩に手を置いた。
「?」
京次が訝しげに振り向くと、突然、雪之絵真紀の唇が、京次の唇をふさいだ。
爪先立ちして、首に両腕を回し、体を密着させる。
外から見ても、雪之絵の唇が京次の口内で激しく動いているのが解る。
初めは驚いた京次ではあったが、特に嫌がる理由がある訳でもなく、雪之絵の行為を受け入れた。
『なっ!?』『ああ!?』
それを見て同時に声を上げたのは、再びテレビの画面に現れた鳳仙圭と陸刀アケミである。 いや、声の大きさはアケミの方が、若干大きい。
その声を聞いて、満足そうに笑った雪之絵が唇を離す。
二人の口に唾液の糸が伸びたが、それは雪之絵が舐め取った。
「...どう? 少しは落ち着いた?」
笑顔の雪之絵がそう言うと、京次は明後日の方角に目をやりながら、「まーな、」と小さく答えた。
「命の為に、そこまで怒ってくれるのは嬉しいけど、冷静な判断が出来ない状態でいるのは、これから先は危険だからね。」
『竜王』『雀将』との戦いを見ていた、雪之絵真紀の言葉。
命を傷つけられた為に、京次が冷静な判断力を失っているのは、誰の目から見ても明らかである。
「解ってる、少なくとも、命を救う為の判断は、絶対に間違えはしない。」
こめかみに浮き出ていた血管が、幾分引いた京次がそう答えると、雪之絵は嬉しそうに笑ってみせた。
「...ところでお前、今のキスは、それだけが目的だったのか?」
「馬鹿言わないで、本気でそんな事言ってんなら、私の方こそ怒るわよ。」
雪之絵真紀が、京次に背を向けて、通路を右側に歩き出す。
「さて、それじゃ、私は鳳仙圭の言う通り、通路を右に行くわ。」
そう、初めこの屋敷に来た時、鳳仙圭自身が、雪之絵真紀に対し、一人で通路を右に行けと言ったのだ。
「鳳仙圭自身が私に会いたがっている以上、私の行く手を阻む敵は現れないわね。 その代わり、この屋敷にいる敵は、ほとんど京次を攻めるはずよ。」
「そんなの、全然問題ないと解っているはずだろ?」
コートを翻した京次が、自分は通路を左へ向かい、歩き出す。