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クレイモア

屑男 撲滅抹殺委員会!

−前へ歩く−

 鳳仙圭の黒目が、忙しなく左右に揺れている。

 はじめて知った、皆月京次の実力。

 『エデンの家族』に匹敵する実力を持つ『竜王』を、何の苦もなく倒して見せたのだ。 客観的に判断して、この屋敷の中で皆月京次と戦える者は、『白い死神』ただ一人だけであろう。

 しかし、『白い死神』は、御緒史が自分の側から離そうとしない。

 鳳仙圭は、すがる様な目で、左手首に巻いてある腕時計を見つめた。

 鳳仙圭の用意した切り札は四つ。

一つは、操られた鳳仙桐子と陸刀加渓。

 一つ、一つは、竜王と雀将の二人。

 しかし、どちらも、もう使い物にならない。

 残り二つの切り札の内、一つは、とても皆月京次の相手が勤まるとは思えない。

 最後の一つなら、皆月京次にも対抗出来ると思われるのだが、午前三時にならなければ、訳あって、その最後の切り札は使えないのである。

「ちっ...」

 舌打ちした鳳仙圭のアナログの腕時計は、午前二時を示していた。 

 苦虫を噛み潰したように顔をしかめて考える。 戦力では劣るとしても、まったく対抗する手段が無い訳ではない。

 皆月京次、雪之絵真紀とも、命がどの部屋に捕まっているのか解らないはず。 つまり、膨大な数のある鳳仙屋敷の部屋を、一つ一つ順番に調べなければならない。

 その間に命を連れてこの屋敷を逃れ、再起を図れば良いのだ。 鳳仙屋敷は、元々武家屋敷である為、隠し通路はいくらでも存在した。

 御緒史は置いて行く事になるが、鳳仙圭にはどうでも良い事である。

 ”皆月京次と雪之絵真紀が、ここに辿り着く前に、命を連れて屋敷を脱出する。”

 最善の策であろう事を思いついた鳳仙圭の顔が、禍禍しく歪んだ。

 しかし、この時である。 平和な日本では、決して聞き慣れない大音響が鳴り響いた。

 ズンッ、という腹の底に響く、重厚な爆発音。 皆月京次の実力を目の当たりにして呆然としていた全員を、我に帰した。

「何だ今のは!?」

「爆弾の衝撃だわ!」

 その方面に詳しいアケミが、逸早く正しい答えを叫んだ。

 そう、

 花火のようにバーンとゆうような高音ではなく、ズンと腹に響く低音、TNT爆薬かC4(プラスチック爆弾)共通する爆音である。

 自衛隊御用達の爆弾だが、アケミは陸刀の殺し屋として、何度か利用したことがあるのだ。

「爆弾なんか、何で...」

 屋敷のどの場所で爆弾が使われたのか知るために、テレビ画面に映る景色を変えて行く。 監視カメラは、屋敷内だけでなく、外の庭や塀までも仕掛けてある。

 何回か景色が切り変わった後、画面に、鳳仙圭のまったく知らない男の顔が映し出された。

 その場所は、屋敷を囲う塀の裏門であった。

『盛り上がっている所、邪魔するよ。』

「な、何者だ?」

  鳳仙圭の問い掛けに答えず、カメラ目線のその男が、タバコを咥えていると、同じくテレビ画面を見ていた皆月京次が、ホツリと呟いた。

「...貴時、」


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