皆月京次が、転がるニ体の死骸を冷めた目で見下ろしていると、ゆっくりした歩みで雪之絵真紀が側まで寄って来た。
自分よりも、頭一つ下にある雪之絵の視線は、京次の左手に注がれている。
竜王の百歩神拳が命中した場所。京次の左手の薬指と小指は、完全に消滅している。 つまり、この傷は永久に治らない事を意味しているのだ。
「焼失したせいなのかしら、出血はしていないみたいね。 痛い?」
「いや、元々の怪我のせいで、マヒしてるんだよ。 傷みなんか、初めからねーよ。」
そう答えた京次だが、おそらく嘘だ。 命を傷つけられた怒りに比べれば、自分自身の傷みなど、取るに足ら無い状態なのだろう。
過去に、腹を刺されても、命を逃がす為に戦えた雪之絵には、それがよく解った。
「京次らしくないわね? 何時もみたいに余裕見せれば?」
そう言った雪之絵だったが、その言葉と裏腹に口元は緩んでいる。
「もし、自分のガキが目の前で傷つけられても、余裕ぶっこいてられる野郎がいたとしたら、
俺はそいつを、”人間が出来ている”なんて全然思わねえよ。」
過去、初めて命に唇を奪われた時に思った事がある。
「いいか? 命を救い出すまでの間に、俺の前に現れたやつ等は、」