神社仏閣を思わせる巨大な門を潜った後、鳳仙家の衛兵が、一歩一歩あるく度に襲いかかって来た。
その全てを撃破しながら、この正面玄関まで辿り着いた二人は、屋敷の中に入れば更に衛兵の妨害が激しくなるものと覚悟していたのだが、思いがけず屋敷の中は静かだった。
土足で、屋敷の中に上がり込んだ皆月京次は、交差点に差し掛かったかの様に、左右を見回す。
右と左、どちらも同じく、長々とした廊下が続いている。 黒い木材造りの為に、先の方は闇に隠れて何も見えない。
「...雪之絵」
手分けして命を探そうと、提案しかけた京次の言葉を、第三者の声が遮った。
「!!」
その声は、真正面にある部屋の中から聞こえた。 半ば条件反射でその部屋の扉を蹴破ると、その声は、部屋の中のテレビから聞こえたものだった。
「まあ、気配はしなかったからな。」
その結果を当然なものとして、落ち着いた口調で京次が呟く。
部屋の一番奥。 木っ端微塵になった扉の向こう側にあるテレビには、一度も見たことのない男が映っていた。
「あ?」
少しだけ、京次の目が細くなった。 雪之絵真紀の方は、腕組みしたまま微動だにしない。まだ無言のままである。
「くだらねー挨拶はいらねぇよ。 命はどこだ? 急いで来たから、無事なはずだぜ?」
イラついた京次がはき捨てるように言い放つと、鳳仙圭は満足そうに笑って見せた。
『だからキミは誰なんだい? 俺は奴隷なんかと話す口は持ってないんだけどね?』
小馬鹿にしたような目がいけ好かない。
「ふざけるな、俺は命の父親だ。 んなこたーいいから、とっとと命を返せや。」
わざとらしく考えこんだ後、『あー、』と漏らして両手を叩いて見せた。
『そうか、真紀姉さんが捨てた娘を押し付けられたのがキミか! 大変だったろうね。幾ら真紀姉さんが恐いからって、いらない子供を育てなければならないなんて。 哀れで泣けてくるよ。』
流石に、京次のこめかみに血管が浮き出す。 しかし、怒鳴られる寸前で鳳仙圭は、話をそらした。
『娘さんに会う前に、もう一人会って欲しい人物がいるんだよ。』
そう言った鳳仙圭の手には、占い師が使うような水晶玉が握られていた。
テレビ画面の左側から、幽霊のように現れた女性。
水晶同様青く光る瞳からは、大粒の涙が零れていた。
「アケミ、」
『...何だ、あまり驚かないんだね? 真紀姉さんから、既に正体は聞いてたんだ?』
「まあな...」
『キミからは、アケミを通して、真紀姉さんや娘さんの情報を沢山入手できたよ。 まあ良かったじゃないか。嘘でもアケミから愛を囁かれて、気分良かったろ?』
アケミが、京次に絶望的な視線を向けながら、頭を降り続けている。
本当なら、あれはお前の仕業なのかと、問いただしたい所だが、それは辛うじて止めた。
テレビの中の男がアケミに性的虐待を行っていたなど解りきっている。 それを、わざわざアケミの目の前で確認するのは酷であろう。
黙っている皆月京次を、悔しがっていると勘違いしたのか、上機嫌に浮かれながら軽やかな口調で続けた。
「この...!!」
それが逆に効果となって現れ、京次と鳳仙圭の動きがピタリと止まる。