「ですが、私は京次さんの言葉に反対です。」
京次の走り去った方角を、黙って見つめているサラに対し、カズ子が睨み付けて吐き捨てるように言った。
「大恩のあるアケミさんを見捨てて、それで生き方を変えるだなんて、あなたは罪の上塗りをしています。」
「...私が見捨てたって、アケミが言ったの?」
「そうです。」
「そう、アケミがそう言うのだったら、その通りね。」
サラは、苦笑して俯いた。
「そうです。京次さんも、あなたが道を間違えたと言っていたじゃありませんか。」
それは違う。 京次が言っていたのは、殺し屋として生きて来た今までの生活の事だ。 しかし、サラは言い訳するつもりは無い。
「それに、アケミさんの前では言えませんが、人殺しのあなたが、今さら生き方を正して罪を償えるなんて、それこそ甘いです。」
「まったくその通りだわ。」
「たまに聞くわよね?『生きて罪を償う』とか。 でも、殺した人間に対して、どうやって罪を償えるというの?」
「もし、人を殺して、それで反省して、人として成長したとしても。 殺された者が口を効けたら必ずこう言うわ。」
「よく解ってますね。 自分がどれだけ酷い生き方をして来たのかを。でも、私はあなたのように人殺しにはなりたくありませんし...」
カズ子は、そう言いながら三つ編みの髪を解いて行く。
「アケミさん、あなたの事を気に入っているようですので、素直に道を開けてくれれば、私はあなたには何もしません。」
「...へえ? 水晶がなくて、加渓を操れないアンタに、私をどうにか出来ると思うの?」
サラは、義手を持ち上げて威嚇して見せる。 しかし、カズ子は、冷たい目でそれを見ながらこう言った。
月は精霊エネルギーの源であり、女は髪の毛でそのパワーを吸収する。 オカルトでは、結構有名な定説である。
まるでスイッチが入ったかのように、突然動き出した陸刀加渓。
しかしサラは、特に驚いた様子も無く、立ち上がろうとしている加渓に身構えた。
「雪之絵真紀との戦いは、途中からだけど見ていたわ。 あの体たらくで私に勝てるつもり?」
「勝ちます! アケミさんを裏切ったあなたに負ける訳には...」
この時、言いかけた台詞もそのままに、カズ子の動きがピタリと止まった。
「...?」
不思議に思ったサラが視線を戻すと、そこには、辺りに視線を漂わすカズ子の姿があった。
「桐子?」
サラの呼びかけにも、ボーっとしたカズ子はまったく反応を示さない。
「何!?」
得体の知れない危険な雰囲気を感じ取ったサラが、珍しく焦りを見せた。