電話が終わるのを見計らったように、カズ子が、アケミの部屋の扉を開ける。
「桐子、」
カズ子こと鳳仙桐子は、『エデン』の一件以来、ほとんどの時間をアケミと共に過ごすようになった。 寝る時は勿論、普段から殺風景なアケミの部屋に入り浸りである。
「顔色悪いですよ? 何かあったんですか?」
最近滞っていた、アケミの『接待』が再会されたのではないかと心配して、カズ子が眉を潜める。
それに気が付いたアケミは、それは違うと言うように、頭を振って見せた。 しかし、やはりその仕種は弱々しい。
「...ちょっと、ショックな事あってね。」
「何です?皆月京次さんに捨てられたとか?」
「縁起でもない...でも、少し近いかしらね。」
その言葉を聞いだカズ子は、自分の耳を疑う。
アケミが一番信頼している仲間は、自分だと思っていた。
「知ってると思うけど、今や陸刀のヒットマンは壊滅状態。 私の信頼している仲間は随分減ったわ。」
今までアケミに付き従ってきた陸刀のヒットマン達は、戦力としてもさる事ながら、アケミの心の支えとなっていたのだが、最近、雪之絵真紀に、そのほとんどが殺されてしまった。
そして、その中でも一番信頼し、深い絆で結ばれていると思っていた、サラメロウの心変わり。
「こんな状態で、京ちゃんを敵に回さなければならないと思ったら、流石に心細くてね。」
呆気に取られて、為されるがままになっているアケミの唇を、カズ子の唇が貪り尽くす。
男達の舌よりも、一回り小降りなカズ子の舌が、アケミの舌に絡み付くと、 自分のものとは違う味の唾液が、喉元まで流れ込んで来た。
「んぐ!」
アケミが力ずくでカズ子を引き剥がすと、その反動で体がベットの上に仰向けに倒れた。
慌てて起き上がろうとした所を、カズ子が上から圧し掛かった。
上気した顔が真っ赤に染まり、発情を押さえられずに息を荒げる。
「ちょっと、待ちなさい桐子!」
「アケミさんは、私の気持ちに気が付いてるはずです。」
瞳を潤ませて、アケミがテレパスであるかの様な事を言う。 しかし正直な所、アケミはカズ子の気持ちとやらには、まったく興味がなく、今のキスには寒気さえも感じた。
今更、純情ぶる気もないが、アケミに取ってカズ子は、あくまで”妹”同様の存在なのだ。
「私は、アケミさんを裏切ったりしません。 永久にアケミさん一人の物になります。」
「待ちなさい桐子! あなたも、加渓も、本当は普通の女なの! それが私のせいで、男に偏見を持っているだけなのよ!」
タケ子の名前を出されて、カズ子は動きを止める。
元々ノーマルだった筈のタケ子が女に走ったのは、本人の言うようにアケミに原因がある。
思春期を迎える前からアケミを見て育って来たタケ子には、アケミの体を求めて群がる男達の姿が、トラウマとなって、心に刻み込まれている。
それは、『接待室』で男達の行うアケミへの虐待を沢山見ているカズ子も同じ事で、 これで男に偏見持つなと言う方が無理な話だっだ。
「わ、私は...」
「ね? 桐子は男の汚い所ばかり見てきたから、女の私を求めたりするの。 でも、素敵な男も沢山いるから、」
「...原因とか、理由とかどうでも良いです。 でも、私もアケミさんと同じで、これから兄と、友達の命を裏切るんですよ?」
元々、脱がすのは容易い露出度の高いチャイナ服、性行為に為れていないカズ子でさえ、アケミから剥ぎ取るのは簡単だった。
体力では、圧倒的に分のあるアケミ。 しかし、カズ子の行為から力づくで逃れる気にはなれない。
それどころか、目の前にいるカズ子が、妹の加渓、そしてサラの姿と重なって見えた時、もう自分には鳳仙桐子一人しか残されていないのだと痛感した。
「アケミさん?」
身を起こしたアケミは、逆にカズ子を押し倒し、乱暴に衣服を剥ぎ取った。