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元々、鳳仙屋敷はカズ子の生まれ育った家だ。
客である『エデン』に当てがわれた部屋が、どの辺にあるのか大体想像出来る。
「ここだよ!」
まるで、自分の勉強部屋であるかの様に、胸を張って紹介するマルキーニ。
「...うん。」
小さく答えたカズ子は、その部屋の扉を眺めた。
マルキーニに案内されてたどり着いた部屋は、思った通り一階の勝手口に近い客間だった。
かつて殿様などのお偉い様が来た時、一緒に連れて来た、沢山の家来に利用してもらう為の部屋で、広さだけは相当なものだ。
この広さは、家族連れの『エデン』に使ってもらうには打って付けであろう。
それに、進入者を防ぐ為に裏口近くに造られているのも、都合が良い。
殿様の雪之絵御緒史を守る、家来の『エデン』。言い得て妙だろう。
一応客間なので、あまり利用した事のないカズ子は、ひたすら広いという印象しかない。
「あはっ、お母さんいないんだから、そんなに緊張しないで。」
相変わらず、黒光りする暗い部屋。
本来なら、講堂並みの広さのある部屋だが、左側が完全にカーテンで仕切られており、目の当たりに出来る部分は、本来の三分の一にも満たなかった。
見える部分の部屋は、まるで日本の茶の間に見立ててあり、卓袱台に座布団が用意されている。 更に、小さめのテレビと、白い冷蔵庫まである念の入れ様だ。
座布団の数は計四つ。 丁度『エデン』の人数分だが、今は誰も座っていなかった。
「さ、座って、座って!」
「このカーテン、何?」
「これはね? 一人一人プライバシー守る為に、仕切ってあるの。」
マルキーニの言葉によると、母親以外の父親と双子の兄はこの部屋に居るはずである。 二人とも、このカーテンの向こう側にいるのだろう。
「そんなの、兄さんに言えば、もっと部屋貸してくれると思うけど...」
「あー、この家の部屋って、どれも広くて落着かないの。 私達、根っからの貧乏性なのね。」
冷蔵庫を開けて、中から缶のお茶を取り出す。
これでいい? とのエデンの問いに、カズ子は肯いた。
思いのほか、喉が乾いている。 一口そのお茶を飲んで本題に入る。
「あなた達が引き摺っていた人達、このカーテンの向こうに居るの?」
「うん、何時でも呼べるけど、その前に遊ぼうよ。」
そう言ったマルキーニの瞳は、少し潤んでいて、顔も赤い。
「遊ぶって、何をして?」
「さっき、お姉ちゃん、地下室でしてたでしょ?」