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屑男 撲滅委員会!

−ブラック・アイズ−

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 「雪之絵 命、どこ?」

 突如現れた、奇怪な侵入者の問いに答える者などあるはずもなく、クラスの生徒達は徐々に下がって行き、教室の隅に固まった。

 故に奇怪な侵入者の視界に入っているのは、侵入者の冷たい視線を仁王立ちで受け止める高森夕矢と、元々強気なタケ子、侵入者の正体を知っているカズ子の三人だけである。

 カズ子は、この侵入者の三人と話をした事はないものの、面識はあった。

 三人とも、陸刀の飼っている”殺し屋”もしくは”鉄砲弾”である。

 浅黒い肌の女の名は、サラ メロウ。

 ブロンドの長身の男が、皇金(おうこん)

 赤一辺統の小男が、太郎(たろう) これが、それぞれ三人の名前だ。

 カズ子の一族である鳳仙は呪術を、陸刀は実行犯としての立場を担っているが、陸刀家の人間だけでは、とても数が足りない。 そのため、誘拐や人身売買で子供たちを集め、殺し屋や鉄砲弾に育てるのである。

 サラメロウと皇金の容姿が明らかに日本人ではないのは、外国で買って来た証拠と言えよう。

「命は、どこ?」

 感情の起伏を感じさせない声で、サラ メロウが言う。 相当に日本での生活が長いらしく、イントネーションに引っ掛かりを感じる所は一つもない。

 とりあえず日本語が通じると分かった高森夕矢が、一歩前に出た。

「居ません。 用件がそれだけなら御引き取り下さい。」

 高森の答えに、サラメロウら侵入者が、お互いの顔を見合わせる。

「おかしいわね。 命はこの教室にいるはずよ?どこにいるの?」

 サラメロウの言葉には確信があった。 おそらく命が登校しているのも確認済みだし、まだ校門から出ていないのも確認済みなのだろう。

 つまり、「今日は来ていない、」などのハッタリは通用しない。

「...学校のどこかに居るのでしょうが、知りません。」 高森が一瞬の思案の後、そう言った。

 再びサラメロウ達侵入者は、顔を見合わせる。

 学校一階の端にあるこのフロアには、現在このクラスにしか人間がいない。 サラメロウ達も、それを知っているから、行動するのに、この時間帯を選んだのだろう。

 そのため、騒ぎを起こしても気付かれる事は少なく、時間も充分にある。

 しかし、肝心の雪之絵 命がいないのでは、どうしようもない。

 命を探すのに学校内をウロつくには、侵入者は目立ちすぎるし、また時間が足りるとも思えない。

「どうしたものかしらね。」

「簡単じゃないか。」

 薄笑いを浮かべた長身の男、皇金が、高森達三人を指差した。

「お前等、三人の内どれか、雪之絵命をここに連れて来い。」

 横柄極まりなく無礼な態度。 カーっと頭に血が登ったタケ子が前に出る。

「あんたらねえっ!!一体何様のつもり!!?」

「いけない!!」「ダメよ!タケ子!!」

 明らかな愚行。

 高森とカズ子の制止も間に合わなかった。

「そう喚くなよ。お嬢ちゃん。」

「なっ...」

「なにすんのよーーーっ!!」

 侵入者の太郎を振りほどこうと、暴れまわるタケ子だったが、仮にも陸刀のヒットマンである太郎から、女の細腕で逃れる事は出来なかった。

 それどころか、片腕だけでタケ子の両腕を封じ、もう一方の手で好き勝手に弄ぶ。

「やっやめてよーーーっ!!」

 高森が一瞬飛び掛かろうと身構えたものの、太郎はタケ子を盾にしながら、その場を後退る。

 タケ子はクラスの中で腕っ節の強い方だ。 そのタケ子がこれだけ暴れるのを片腕で押さえられるのだから、たしかに強力な力を持っているのだろうが、高森を驚かせたのは、それではない。

 タケ子が侵入者に食って掛かろうとした時、高森は視線を侵入者からタケ子に視線を動かした。 この時、たしかに侵入者の中に太郎の姿もあった。

 にもかかわらず、視線を動かした先には、タケ子と、それを後ろから組み付く太郎が居たのである。

 視線を動かすよりも、先を進む太郎のスピード。

 高森自身、認めるしかない。「この侵入者は、自分より遥かに速い、」と。

「お前らも不審な動きすんなよ!!?俺の気に入らない事した奴は、女なら犯しちまうし、男は殺すぜ!!!」

 太郎は、教室の後ろ一個所に固まっているクラスメートに向けて言い放った。

 総数、三十数名の生徒が震え上がる。

 実は、侵入者が雪之絵命を探している事を知って、クラスの生徒達は一様に安心していた。

 命は学校内で、上級生に対し、傍若無人ぶりを余す事なく発揮している。 そのため、この侵入者達も、命をいぶかしむ上級生の差し金だろうと、タカをくくっていたのだ。

 そんな甘い物ではなかったと、今さら気が付いても後の祭りである。 既に全員、携帯電話という便利な道具も使えないほど恐怖にかられていた。

 血を垂れ流しながら放置されている数学教師の様には、また、タケ子の様に辱めを受けるのも「絶対に、ゴメン」だ。 

 どう動けばいいのか分からない高森とカズ子、震え上がるクラスメートが静寂を作る中、

『ぴっ、』と、高い音が微かに聞こえた。

「ブラ付けてないのか?」

「割と大きいんだから、付けた方がいいぞ?」

  「きゃああーーーーーーっ!!!」

「いいのか?あれ、陸刀アケミの妹だろ?」 様子を面白そうに見ている皇金の、他には聞こえない小さな声。

「いいんじゃない?」サラ メロウはそう普通に答えた後、「アケミこそ誰にでも股開く女だしね。」と、小さく付け加えた。


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