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ショッキングピンクの壁と赤茶けた天井と絨毯。 その色だけでもいかがわしいのに、壁に据え付けられているロウソクを象った淡めの電球が、それを一層際立たせている。
部屋の真ん中に、ツインをさらに超えた大きなベットがおいてあり、その横には、未だ乾ききっていないアケミの嘔吐が広がっていた。 まあ、嘔吐に関しては、絨毯ごと取り替えてしまうつもりなので、このままにしておけばよい。
鳳仙家屋敷の地下にある『接待室』。 カズ子はまだ、そこに居た。
接待室は前にも述べた通り、ラブホテルの一室を模している為、トイレも浴室もちゃんと付いていた。
その浴室にアケミが消えて、既に一時間が経過している。
『接待』の恥辱に汚された体を洗っているのだ。 幾ら洗っても、洗い足りないという事なのだろう。
『まだまだ、アケミが出て来るのには、時間が掛る。』 そう思っていたカズ子だったが、当のアケミは、以外に早くに現れた。
思ったより元気そうなアケミを見て、カズ子の方もつられて笑顔を浮かべた。
カズ子は、アケミを本当に尊敬している。 アケミが元気なら、自分も嬉しい。
「でも丁度良かったわ。桐子、悪いけど治癒の呪術を私に施してくれない?」
言いながら、アケミが背を向ける。
「勿論良いですよ?」 カズ子はポケットから、水晶玉を取り出した。
そして、口の中だけで唱える呪文に反応して、青く光り始める。
呪術師、鳳仙の治癒能力。 鳳仙の力にしては、珍しく人の為になる力である。
アケミは接待の中でSMを強要され、怪我する事がある。 しかし今回は、屈辱的であったものの怪我はしていない。
何故、治癒を頼まれたのか分からずに不思議に思っていると、聞いてもいないのにアケミが答えた。
「今から京ちゃんと会うのに、キスマークとか付いてたらシャレになんないからね。」
カズ子は成る程と納得した。 浴室からアケミが出て来た時、妙に元気だったのも、その為なのだろう。
だが、それと同時に、やはり嫉妬もおきて来る。
カズ子は大人しい為か、何時も二番目、三番目に見られがちである。
命と、タケ子、そして自分。 この三人の繋がりは皆平等であると信じていたが、 結果は知っての通り、タケ子は命に御執心だ。
アケミに至っては、皆月京次よりも、自分の方が遥かにアケミを理解し、力になれるとの自負がある。
それなのに、アケミが本当の笑顔を蘇らせるのは、何時も皆月京次だ。
これらは、愛情と友情の違いでしかなく、人と人の繋がりの優劣に基づくものではないのだが、未だに初恋すらした事のないカズ子には、それがまったく解らなかった。
アケミが背中を向けているのを良い事に、しかめっ面で治癒を施していたカズ子は、呪術を途中で切り上げた。
「終わりましたっ。」
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