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夕闇が秒単位で深まる中、ある林の一個所だけが時間に取り残されたかのように、朱に染まっていた。
もっとも、普通の人間がそれを見ても解らない。 京次やサラメロウの様な、ごく一部の人間だけがそう感じるだけだ。
その朱の正体は、サラメロウも逃げ出した雪之絵真紀の炎の殺気である。
「...でも、一人だけ、雪之絵とまともに戦えるヤツが居るみたいだな。」
朱色に染まる林を眺めながら、京次が呟く。 たしかに。陸刀のヒットマンの中に、たった一人だけ雪之絵と勝負出来る戦士がいた。
その正体は実は陸刀アケミなのだが、その事を京次は知らない。
サラメロウも、京次と同じ気配を感じ取りながら、雪之絵と、陸刀ヒットマンの戦いを探っている。
こちらは京次と違い、表情が険しい。
一々、京次の言う通りで、雪之絵真紀に対抗できるのは、陸刀アケミただ一人だけだ。
「どうやらアンタの言う通りみたいね。まあ、私がミコトを連れ去るまで持ってくれればいいんだけど...
ミコトはどこ?言えば殺さないであげるけど?」
「あっ!!パパいたーーっ!!」
「パパー!!良かったぁー!!心配したよーっっ!!」
「一体、何に対して、心配してたんだよ。」
京次の名誉の為に述べておくが、京次が経験した女の数は、たった三人だけである。 高森にまで言われる程ではない。
「...まったく、緊迫感のない連中よね。」
京次の後ろから聞こえたその声に、命が直ちに反応する。
「だって...」 少しだけ力の抜けた命が、京次を見上げた。
それと同時に京次の方も、命を押さえる腕の力を抜く。 しかし、これが失敗だった。
「ミコト?今日は、ちゃんとオムツ付けて来た?」
「...何を?」
瞬間、命の体が京次の腕からすり抜けた。