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今日の終わりを告げるべく、太陽は地平の彼方に沈んだものの、まだ西の一部に明るみが残っている。
夕方と夜の境。今は丁度、そんな時間。
何気なしに頭の上を見上げてみると、そこには幾多の星が、輝く為に夜の到来を静かに待っていた。
まるで男と女の為に、わざわざ作ってくれたかの様な美しい風景。
しかしながら、皆月京次の前に立つ女性が醸し出す殺気と圧力が、そんな貴重とも言える自然からの贈り物を、全てぶち壊してくれた。
「俺は、皆月京次。キミ、名前なんて言うんだ?」
サラメロウの言葉の中には、『もう、二度と会う事ないし。』そんなニュアンスが多分に含まれていた。 それを知ってか知らずか、京次は視線を、サラメロウから鉄柵の向こうにある病院の庭へ動かした。
「この前は、たった三人で命に会いに来たそうだが、今回は随分多いな。 三十人はいるだろ?」
「へぇ、たいした力持ってないくせに、よく分かったね。 気配を探ったりするのは上手って事かしら?」
この病院は、裏は山、表の庭も針葉樹の木々が林のように植えられており、陸刀のヒットマンが隠れるには申し分ない地形である。
京次が気配を読む事で確認した陸刀のヒットマンの数は、総勢三十二名。 それだけの人数がこの病院をグルリと囲んでいた。
「でも、別にアンタを相手する為に集まった訳じゃないから。 全部、雪之絵真紀対策。」
「そうみたいだな。」
サラメロウの言うように、病院を囲むヒットマン達は、誰もこちらに意識が向いていない。全員外側に意識を配り、あたりを警戒しているのが感じられた。
「雪之絵真紀の実力は私も知ってるわ。 この人数でも勝てるかどうか解らない相手よね。 でも流石に雪之絵真紀も簡単に突破出来ないでしょう。」