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元々、高森のお見舞いに来たタケ子だったが、どうやら命とちちくり合っている間に時間切れとなったようだ。
このまま、カズ子の所へ行くつもりだと言うタケ子を、病院の玄関まで送った命は、京次と高森の待つ病室へと向かった。
初めに来た時と同様、一つずつ病室のナンバーを確認しながらの歩みは、かなり鈍く時間も掛るかる。
だが、命の歩みが鈍いのはその為だけではない。
タケ子とのペッティングが終わり、トイレから出ようとした時の事だ。 その時の事が、頭から離れない。
タンクトップを直しているタケ子を背中に感じながら、命は一つ思い出して声を掛ける。
振り返った命は、タケ子が自分のパンツにキスしてるのだと気付くのにしばらく時間が掛った。
「何やってんのよ!?やめてよ!!」
正気の沙汰とは思えないタケ子の行動、命は慌てて下着をふんだくる。
「だって、命が直に身につけてる物だから、なんかいとおしくて。」
タケ子の表情が、本当に切なげに見える。
これを見る限り、命の下着にキスしていたのは、スケベな気持ちだけではなく、本当に命の身に付けている物に触れたかったからだと言う事になるのだが。
「えーと、でも、汚いでしょ?」
自分の下着が汚いなどと、命自身言いたくはないが、事実なのでしかたがない。
女は男と違ってモノが付いていない為、汚れやすいのは当然だ。 命も女だから、例外なく汚れる。
命は、京次に自分の全てを曝け出していいと考えているが、一日使ったパンツを見られるのだけは絶対に嫌だった。
「私は、命のものなら何だって、汚いとは思わないよ?」
平気で言い放つタケ子に、命は絶句した。
この後、タケ子はカズ子の所に行く為に病院をすぐに出て行ったのだが、その時のタケ子の様子が、命の頭から離れないのだ。
しかし、命にも、その人なら何でも汚くないと感じられる人間が一人だけいる。
言わずと知れた、皆月京次だ。
つまり、タケ子が命を見る目は、命が京次を見る目と同じだと言う事になる。
「...マズイな、本気で惚れられたらマズイな。」
命がタケ子とエッチな事をするのは、ただ気持ちいいからに過ぎない、 ちょっと二人でお勉強しましょう。 その程度の物なのだ。
「タケ子の名前だけ伏せて、パパに相談してみようかな。」
そう呟いてみて、これが中々名案である事に気付く。
『パパは、恋愛のエキスパート。これ以上、相談相手に適した人間はいない。 何より、命自身の口から、別の異性(?)の話を聞かされれば、パパはヤキモチ焼いてくれるかも知れない。 』
正に一石二鳥。 特に、二つ目がきいている。
今まで重かった足取りが、いきなりスキップに変わり、 早い所パパに相談しようと道のりを急ぐと、歓迎してくれているかのように高森の病室が見えて来た。
とりあえず、タケ子にはタケオという男になってもらい、そいつに物凄く強引に迫られている事にしよう。 相談の中身をそう決めて、喜び勇んで、扉を開ける。
「パパーっ、高森も、遅くなってコメーンっ!!」
「あれ?パパは?」
「命さん、よかった。無事でしたか。」
高森が意味不明の言葉とともに振り返る。
高森の眺めていた窓の外は薄暗い。 今日は天気が良いので星も見えているだろう。
「どうしたの?高森?パパは?」
様子のおかしい高森に、命も困惑する。もう今までのようにニヤけていない。
「いえ、京次さん、さっきまで僕と話していたのですが。いきなり立ち上がって...」
「初めは、トイレかな?って思ったんですが、外の様子がおかしいんです。」
「ど、どう言う事?」
命も、窓から外を眺めるが、別段、変な所はない。 ただ暗いだけだ。
「気が付きませんか?」
どうやら命は、高森のように人の気配を探るような器用な真似は苦手らしい。
「病院の周り、悪意を持った大勢の人間に囲まれてます。」