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京次は、まるで暴れ馬の様にね跳ね上がり、上に乗っていた命をひっくり返す。
四つん這いになって逃げ出そうとするのを、命が倒れ込みながら捕まえて放さない。
「パパっ!!どこ行くの!?まだ続きがあるよ!!」
「ない!ない!!ない!!!落ち着け!命!!」
すっかりその気になっている命を、どうにか宥めようとする京次だったが、どう見ても、落ち着くべきなのは京次の方だ。
「えーいっ、パパ往生際悪い!!キスしといて今さら聖人君子面すんな!! もう既に、パパと私は一線越えたのよ!!!」
「越えてない!!キスなんぞ外国では挨拶代わりだ!!」
「どこの国の挨拶に、あんな濃厚なキスがあるってのよ!!いいから観念しろ!!」
バタバタと二人してもみ合いになる。小回りが利く分、命の方がやや優位だ。
「待て!!これ以上の事したら、俺の方が命と一緒に居れなくなるだろっ!?」
京次の体に絡み付いていた命の動きが、ピタリと止まる。
『パパは絶対に私を嫌いにはならない。』そう確信持った後、命は、我が侭言い放題、やりたい放題に育ってしまったが、京次と一緒に住めなくなる事への恐怖は、今も昔も変わらず持ち続けている。
「なっ、何でぇ!?」
恐怖におののく姿を見せて、京次の良心に訴える作戦を取ったのだが、京次の方が遥かに脅えているので効果はない。
「何でって、俺はそうなんだよっ。」
京次は、命を納得させられる考えも言葉も持っていない。 しかし、これは京次の本心だ。
「パパ、キスしたの後悔してる!?私より自分の方が大事!?」
命は押しを緩めようとしない。 京次が混乱しているのは、命もよく分かっている。 はっきり言って、今がチャンスなのだ。
「そうじゃない...ただ、」
??
「後悔じゃない。ただ、罪悪感が拭えないだけだ。」
命の前では、滅多に見せない辛そうな表情。
命はすぐに理解した。 これ以上パパを追いつめるのは、得策ではない、と。
思えば命に取って、京次とのキスは、五年ごしの想いである。
その想いが、今回適ったのだ。 それだけでも満足するに充分な結果だ。
『それに、一回したのだから、キスに関してはこれからも出来る。 キスに対するパパの罪悪感を取ってから、この続きを行えば良い。』
素早く回転した命の脳みそが、最善の答えをはじき出す。
キスを繰り返すごとに、慣れが生じ、罪悪感は薄れるはずだ。
ステップはき、ちんと踏みながら進んだ方が良い。 別に、京次の体だけを欲しがっている訳ではなのだ。
「...判った。今日は本当に諦める。」
「そ、そうか?」
「じゃあ、もう一緒に寝よう?」
笑顔で、布団をぽんぽんと叩く命。
「......」
「いえ...本当に何もしないから...」
命の説得により、京次と命は再び同じ布団に潜り込む。
初め、戦々恐々だった京次も、命の嬉しそうな笑顔にほだされて、落ち着きを取り戻した。
とりあえず目を閉じて、今後の事を考えようとしたのだが、京次が目を閉じるのを待っていた命は、先ほどの様に京次の上にうつぶせの形で乗っかった。
「!!!」 飛び起きそうになった京次を命が押さえつける。
「もう!パパったら、もう変な事はしないよっ。」
命が責め口調で言いながら、京次を見下ろしている。
「でもね?キスはいいでしょ?もう既にしたんだから、ね?」
娘としての可愛くて明るい笑顔を見せながら、命は動けない京次の唇を再び奪った。
キスをして、放して。 そして又、キスをする。 延々これを繰り返し、
命が飽きる事はなかった。 今夜は寝れはしない。 命は、いつまでも京次とのキスに酔い続けた。
けの
甘い吐息を混ぜながら、自分の唇を嘗め回す命を見て、皆月 京次は相変わらずボケた頭ながらも考える。
元々、命との生活は、限られた期間内での事。
一連の事件が解決した後、母親である雪之絵 真紀が命を迎えに来た時点で、命との生活は終わる。
まだ、命は高校一年生になったばかりだし、命との別れは、もう少し後の事だろうと思っていた。
それに、雪之絵真紀より自分の方が、親として、命を立派な人間に育てられるとの自負もあった。
しかし、今の命を見て、思うしかない。
京次は、頭に過ぎるその考えを、無理矢理外に排除する。
子供を育てる権利を、親が放棄するなど言語道断。
『命に、自分が父親である事を認めてもらえるように、これからの時間、頑張ろう。』
そう心に誓う、皆月京次。
しかし、元々、命との生活は、限られた期間内での事。
命と二人きりの、生活の終わり。
それは、そんなに遠い未来の事ではない。