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この日、命の言うように、京次と命の住むアパートの灯は、かなり早いうちに消えた。
京次は命と一緒の布団で寝るのも了承し、 二人が布団の中に入ってからずっと、命は京次に抱き着いて離れない。
京次は、今日学校で起こった事を考えれば、今の命の様子は当然だと思った。
『暴漢に命襲われる』の一報を受けた後、京次は、ずっとヘコんでいる。
命が襲われた時間はちょうど、京次とアケミが、ホテルで、よろしくヤってる最中だった。 事件は留守電に入っていた連絡で聞いたのだが、その連絡の中には、どのように襲われた、などの詳しい情報は入っていなかった。
自分とアケミが絡む姿と、暴漢が命を犯す姿がオーバーラップする。 実際、女の子が襲われたと聞けば、誰でもその事を真っ先に考えるはずだ。
結局、雪之絵真紀によって助かった訳だが、命がそのまま連れ攫われていれば、その後、京次が危惧した通りの結果になったのは間違いない。
陸刀家と鳳仙家は、封じられた呪いを治める為に、命に子供を生ませる必要がある。
妊娠するまで、休ませる事なく犯し続けるだろう。
いつも、パパ、パパ、と甘えて来る命が、犯され弄ばれるなど、考えただけでもゾッとする。
だが、敵はその事が目的であると、分かっていながら、京次はどこかで安心していた。
今まで平和だった事への馴れ。 雪之絵真紀に対する甘え。自分に対する過信。
今回の事は、自分の認識の甘さが招いたのだと、そう思うしかない。
「ふぅ。」
堂々巡りの後悔をしながら、京次は一息つく。
時計の針は十一時を指している。 命はもう寝ただろうか、と考えていると。 隣で寝ている命が、もぞもぞと動き出した。
「ああ。」
命は、仰向けに寝ている京次の上に、うつ伏せの形で乗っかった。 命自身の体重によって、京次と命の体が密着させられる。
お互いの胸が合わさる形、命が京次に甘える時によくする事だ。 命は寝る時はブラジャーを外しているので、二つの膨らみの感触は、そのまま京次の胸に伝わる。
もっとも京次にしてみれば、少し重いだけで、特に欲情するなどという事はない。
「パパ、聞いて欲しい事と、お願いと、両方あるんだ。」
命が真っ直ぐに、京次の眼を見つめる。
命のお願いと言えば、今までの経験上、「キスさせろ」の一つに尽きる。 だがその前の、『聞いて欲しい事』が気になったので、命の言葉を静かに待つ。
京次が少しだけ眉間にシワを寄せた。想像していたより、遥かに重い内容のようだ。
「結局、トドメは刺せなかったけど、ね。」
結果は、二人の侵入者を破壊したものの、殺す寸前でサラメロウによって阻まれてしまった。 しかし逆に、サラに勝っていたら、その後確実に侵入者達の息の根を止めた事だろう。
「実は、絶対勝てるっていう自信は全然なかったんだよ。 でも、もし私が負けて殺されたとしても、別にいいかなって、そう思って戦ったの。」
思わず声を掛けようとした京次の唇に、命が人差し指を当てて制す。
「私ね、今、少しヤケになってる。 何でだと思う?」
「...」
命の言い分は勝手だが、ヤケになっているのは事実である。
だが、実は命が本当に言いたいのは、今日の戦闘の事ではない。
もし、タケ子がいきなり処女膜を破ろうとしたのではなく、陰部を散々愛撫した後であったなら、命は、ファーストキスと同じく自分から、処女を捧げた事だろう。
今日、命はタケ子と秘め事をする関係になった。 快楽を覚えてしまった命は、タケ子が望んだら、きっと断れない。 ならば、命とタケ子は、この先幾度となく肌を合わせる事になるはずだ。
この先のタケ子とレズ行為の中で、京次の為に処女を守る自信が、今の命には無かった。
「パパ、私に自信をちょうだい。
命の真意。それは、タケ子との秘め事の中で、処女を守る意志が欲しいだけだ。
学校での戦いを話に出したのは、京次を説得する為に利用したに過ぎない。 命は、京次がその事で落ち込んでいるのを知っている。
『このまま命を受け入れる訳には行かない。』 そう思った京次は、青くなって体を動かす。
命の言葉に、京次の動きがピタリと止まった。 命が今日襲われた事を改めて思い出す。
『しかし、命の言っている事は正しいのか?』 頭の中だけでの自問自答。