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相変わらず黒一辺倒の服装をした皆月京次が、初めて手に持った携帯電話を眺めながら固まっている。
学校で、侵入者に怪我を負わされた娘の命を車に乗せ、アパートに帰る途中、命とのペアで手に入れた物だ。
『これさえあれば、今日の様に命に何かあった時、すぐに駆けつけられる。』 そう思って、アパートに帰るなり居間のちゃぶ台の前で説明書を読みふけってみたのだが。
言葉と共に、京次の額から汗が零れる。 はっきり言って、皆月京次はハイテク機器に死ぬほど弱い。
「受話器を取るから電話繋がるんだろ?受話器だけで何しろってんだ? メールってパソコンか?携帯って電波だろ? パソコンってアンテナ付いてたか?」
現代に生きる命ならば、少しは教えてくれるのではないか。 そう思っていたが、当の命は携帯電話には興味を示さず、帰ってからずっと、京次の膝に乗っかっている。
首に腕を回し、抱き着いて離れない。
『今日、辛い目にあったばかりだ。 甘えてくるのはしかたがない。』 そう思っているのだが、命の様子がどうもおかしい。
とろん、とした視線で、じっと京次の顔を見上げている。
「どうした?もしかして具合悪いのか?」
京次の問いに、命が軽く頭を振った。
「パパ、今日ね、いろんな事あったの。 それで疲れちゃった。」
それは、当然そうだろう。 膝の上にいる命を、京次は自分からも抱きしめてやる。
「今日、少し早く寝たいな...それでね?」