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屑男 撲滅委員会!

−ブラック・アイズ−

 朝、娘の命が学校へ出かけた途端電話が鳴り響き、皆月 京次が受話器を取ってみると、電話の相手は元ソープランド嬢のアケミだった。

 電話の用件は、アケミ曰く『当然、エッチ目的のデート。』

 特に断る理由もない京次は、すぐにアケミと合流した。

 しかし、会った途端エッチと言うのも味気ない。 とりあえず雰囲気作りのため、見晴らしの良い川沿いの道を散歩する。

 黒のコートに身を包んだ長身の美男子と、挑発にしか使えない大胆なチャイナドレスとストレートの長髪が同色紫の美女。お似合いと言えば、とてもお似合いの二人である。

 すれ違う人達は、男女に関わらず、一度は二人に視線を向けていた。 理由は、二人がカッコイイからと思いたいが、本当の所はアケミの大胆な服装のせいだろう。

「ソープランド辞めても、その恰好は変わらないんだな。」

 どうにも男の視線の気になる京次が、嫌みまじりにそんな事を言ってみる。

「嬉しい?」

「なぜ、そうなる?」

「だって、京ちゃん知っているでしょう?私はもう、京ちゃん以外の人には抱かれないって決めてるのよ?」

「それで?」

「私を見てるあの男達も、私を抱いた事のある男達も、今後どんなに私の体を求めても私を抱く事は出来ないの。 みんな、私を思い出しながらセンズリこいて慰めてる。その中で京ちゃんだけが、私を好きに出来るのよ。」

 アケミは最後に、「どう?アイドルを一人占めしてる気分でしょう?」と付け加えて締めくくった。

 一理あるような、ないような、複雑な気分のまま、「ふーん」と気の無い返事。 しかし、京次のこの反応が気に入らなかったのか、アケミが京次の腕を引っ張って立ち止ませる。 そして、正面から顔を見据えた。

「分かってる? 京ちゃんは私に何をしてもいいの。京ちゃんが望めば、私は何だってするのよ。」

「それこそ、どんなにアブノーマルな事でもね。」

 言いながらキスしようとするアケミを、なんとか引き剥がす。 せめてキスくらい、と思っていたアケミは引き剥がされた時は膨れっ面だったが、京次が珍しく顔を赤らめているのを見て、満足そうな表情に変わる。

「ま、それは良いとして、一つ確認しておきたい事があるんだが...」

「何?」

「アケミは、詩女、知ってるよな?」

「ええ、離婚申請中の奥さんよね?」

「...離婚する気はない奥さんだ。 その奥さんが俺と別居するにあたって言った事があるんだ。」

 京次が珍しく不安気に言い出したので、アケミも少しだけ姿勢を正す。

「ソープランドなんかで、性欲を処理するのは、百歩譲って許すけど、素人の女と浮気は許さないってな。」

 かつて鬼の様な形相で、詩女が言ってた事をあらためて思い出し、京次は身震いした。 京次に取って今現在何よりも恐ろしいのは詩女である。

「アケミとはソープランドで知り合ったが、アケミは現在、ソープランドと何ら関係は無い。 これでアケミと会うのは、もしかして浮気にあたるんじゃないか?」

 京次の心底悩んでいる横顔を眺めていたアケミは、しばらくしてゲラゲラと笑い出した。

「バッカねー、浮気なんかじゃないから心配しなくていいわよっ。 私達みたいなのは、本気って言うのよ浮気なんかじゃないから心配しないで。」

「そうかっ、浮気じゃないのか、良かった。一安心だ。」

 その後、なんとなく首を捻りながらも、京次はアケミをつれて歩き続ける。 すると、今度はアケミの方が京次に質問して来た。 口調がアケミには珍しくたよりない。 

「京ちゃん?ちょっと命ちゃんの事、教えてほしいんだけど。」

「命の事?何で?」

「ほら、わたしが京ちゃんのお嫁さんになった時、命ちゃんの事、ある程度知ってないとうまくやって行けないでしょ?」

 俺の嫁さんになった時点で、命とはうまくやって行けない。そう確信もてる京次だったが、今後、命とアケミが顔を会わす事はあるかも知れない。

「何を聞きたいんだ?」

「そうねえ...命ちゃんって、どんなコ?母親は、とんでもない悪女だったって聞いたけど。 京ちゃんの話によると、随分良い子そうじゃない?」

 アケミの興味深そうな眼差しを感じながら、京次は少しだけ考えた。

「命は良い子だよ。ただし、それは生まれた後の教育による物だけどな。」

「...どうゆう意味?」

「雪之絵 真紀は、あれで命を随分可愛がっていたようだ。俺も可愛がっているし、友達も多い。」

 つまり?

「今の命は、”人に馴れた猛獣”なんだよ。」

「......」

「カタを外すような何かがあったら、すぐに本性が目覚めるだろうな。」

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−ブラック・アイズ−

命の力 その三


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