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屑男 撲滅委員会!

−ブラック・アイズ−

 命を救う方法と聞いて、京次の顔色が変わる。

「京次さん。何はともあれ、命を救う方法を一番に知りたいですよね?」

「ああ、俺は幽霊なんて全然信じてないし、所詮は夢見てるだけだが、その話は嘘でもいいから聞きたい所だ。」

「随分ですねぇ...」

 自称真紀の母は、苦笑の後、京次を正面から見つめる。

 その瞳には、確固たる意志が込められ、これから伝える事柄を口にするには、それだけの覚悟が必要であるのだと、京次に気付かせた。

 自称真紀の母が、言いにくい事。

 一つだけ、ため息を付いた京次は、落胆した様子を隠さずに、それを先に口にした。

「黒い瞳になった命が、母親の雪之絵真紀を殺す事、か?」

 開きかけていた自称真紀の母の重い口が、別の意味で大きく開く。

 ぱくぱくと、金魚の様に口を動かす自称真紀の母を見ながら、京次は、自ら落ち着く為にも、無理矢理に笑顔を浮かべて見せた。

「確か、雪之絵の魂が悪霊に供物として捧げられても、時間かせぎにしかならないって聞いたんだけどな...『黒い瞳』の時に、母親が殺されると、話が変わって来るのかい?」

 言い訳も、否定もせずに俯く自称真紀の母の姿が、京次の言葉のほとんどを認めていると教えてくれる。

「黒い瞳になった命が母親を殺したら、何で呪いが解けるんだよ。 理由がなけりゃとても納得出来ないぜ?」

 そう言った京次だったが、その言葉はかなり譲歩している。  命に母親殺しをさせて、それで全て丸く収まるなど、本当なら正当な理由があったとしても許るものではない。

 自称真紀の母は、観念したかの様に面を上げる。

「黒い瞳の発動は、封じられた悪霊に取っても、相当な力を必要とします。 弱りきった悪霊なら、私達でも簡単に始末出来ますから。」

「私達?」

「はい。私達、雪之絵の女を見くびった、鳳仙家の誤算。」

「私達は、真紀や命の先祖ですよ? おめおめと悪霊の餌になどなりませんわ。」

「黒い瞳を発動させ弱りきった悪霊どもなど、私達が根絶やしにしてやります。」

 正直、京次には納得出来た。 雪之絵真紀を誰よりも知っている京次には、自称真紀の母の言葉は、充分な説得力がある。

「私達を餌に出来ない悪霊達は、自分達が私達に駆逐されるのを覚悟で黒い瞳を発動させ、直接恨みを晴らそうと考えています。」

 カズ子から見せられた夢で、悪霊達が騒いでいるとは、確かに聞かされた。 どうやら、これは雪之絵真紀の魂だけが問題ではなかったらしい。

 悪霊達にしても、雪之絵の娘を黒い瞳にするのは苦肉の策なので、決断をするのに時間が掛かったのだろう。

 自分達の滅亡の代わりに、三家の血筋を根絶やしにする決断を。

「それで?雪之絵真紀を殺せば、黒い瞳になった命が元に戻るという根拠はあるのか?」

「過去に一度、雪之絵の娘が黒い瞳になったのは、先ほどお見せしましたね?」

「なのに、雪之絵や鳳仙、陸刀の血筋が今だに残っているのは何故だと思います?」

 恨みに突き動かされ、雪之絵、鳳仙、陸刀の血筋を根絶やしにしようとする、黒い瞳。

 しかし、自称真紀の母が言う様に、現在三家とも残っている。

「過去に黒い瞳になった雪之絵の娘は、自分の手で母親を殺めて元に戻ったんですよ。」

「悪霊達の正体は、父と母と娘の怨念です。 たとえ怨んでいる相手とはいえ、子供に親殺しまでさせれば、怨みも薄れるのでしょう。」

 自称真紀の母の言葉を、一部始終聞き終えた京次は、明後日の方を眺めたまま、苦渋に満ちた表情を浮かべている。

 ここまで取り乱す事なく話を聞けたのは、京次の想像の大部分が、当たっているからであった。


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