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もし、腕に覚えのある者が今の京次を見たならば、その身に千陣の刃を纏っているかの様に見えるはずだ。
そんな京次を、何を思って見ていたのか、雪之絵真紀は無防備のまま歩き出した。
対峙する二人の距離がどんなに離れていようとも、お互いの脚力を持ってすれば一瞬で詰められるはずだ。
しかし、まるで散歩の途中を思わせる足取りで歩き続ける。
敵の戦力も把握せずに、無暗に攻め込む愚行を戒める為、『空手に先手無し』とは言うが、京次ほど雪之絵真紀の戦闘能力を把握している者はいない。
今でこそ京次は沈黙を守り『受け』に徹しているが、雪之絵真紀が自分の射程範囲に入ったなら即、『攻撃』に転じるだろう。
それを充分理解した上で、雪之絵真紀は、皆月京次が作り出した地雷地域に無防備のまま足を踏み入れた。
自然体で立っている、皆月京次。
もし、誰かが彼の姿を今見ていたとしたら、右腕のない男と思ったのではなかろうか。 雪之絵真紀の足先が、自分の張り巡らせた境界線に寸単位で入った瞬間、京次の右拳が放たれたのだ。
最短距離の真っ直ぐな軌道を描く京次の正拳突きは、空間を裂いて真空の中を走る。
京次の事を誰よりも知っている雪之絵真紀ならば、この京次の攻撃は想像通りであったはずだ。
しかし、無防備のまま歩き続けた雪之絵真紀は、最後まで