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パチン。
「何、寝ぼけてんのよ! アンタが言い出したんでしょうがっ!!」
新聞片手にやって来た皆月京次に対し、サラメロウのイラついた怒声が飛んだ。
実はサラの言う通りで、暇を見ては殴り合いの喧嘩を始める二人に困り果てた京次が、将棋やトランプで決着付けるように提案したのだ。
「そう言うな。 これ以上、陥没したナベなんか作る訳にもいかないんだ。」
陥没したナベとは、サラの豪腕を命がナベで防いだ結果出来たものだ。 他にも陥没したフライパンとか、陥没したヤカンとか、陥没した電子ジャーとか沢山ある。
最近は殴り合いの喧嘩を辞め、将棋が勝負の方法だ。 ちなみに、トランプは勝負に使っていない。
何故なら。
「でも、命はゲーム関係強いから、遣り甲斐あるだろう? 神経衰弱のトランプ、勘だけで全部開いちまうからな。」
「そんなの反則よ。」
「あっ、あんた、少しは考えて指してるんでしょうね!?」
「全然?」
サラは、将棋もトランプも、陸刀のヒットマン達の中では最強だった。
自信も勝算もあって、皆月京次の提案を飲んだのだが、結果は連戦連敗である。
「勝負終わったら言ってくれ。俺、出掛けなきゃならんのでね。」
その場に座り込んだ京次が、新聞を広げてそれを眺める。 もう夕方だと言うのに、京次の着ている服はお出かけ用の黒いコートだ。
二人の喧嘩の理由は、必ず食べ物である。
普段、冷静沈着なサラメロウだが、食べ物の事になると人が変る。 子供の頃の飢餓状態だった記憶がそうさせるのだろう。
今回の勝負対象は、京次の買って来たシュークリーム四つだ。
「あっ!?」
「命、二つは食べさせてやれ...」