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当たり前だが、俺は命を引き剥がす。
だが、あぶなかった。 思いも寄らない命の言葉と行動に、思考が完全に固まってしまっていた。
「なんでーーっ!?欲しい物くれるって言ったじゃないっ!」 手足をばたつかせて抗議する命。 この姿を見て、俺は少し安心した。
先ほど俺に迫る、あの色気は、固まった俺の思考を解凍するのに十分なモノだった。
正に、あの時の命は、性欲の魔女たる雪之絵 真紀の娘を地で行っていた。
「何でよーっ!!鬼嫁詩女には全部出来るのに、何で私にはキスすら出来ないのーーっ!?鬼嫁詩女だって私だって、パパにとっては同じ家族でしょーーっ!?」 ( 一生懸命考えたヘリクツ。)
カタが外れたように、俺に向けて怒りをぶつけて来る。
これ自体は俺が望んだ事でもある。そして、出来る事と出来ない事を教えるのは親の仕事だ。
「命、世の中には、行って良い事と悪い事、出来る事出来ない事があるんだ。」
とりあえず、もっともらしく言ってみた俺。 自分では、素晴らしい事を言ったと思うのだが。
「パパは私が欲しい物我慢してたの知ってるでしょーーっ!?どれだけ、お金浮いたと思ってんの!?浮いたお金を考えれば、キスなんて安いモンよーーっ!!」
全然聞いちゃいねえ。 てゆーか、命の言ってる事、もうムチャクチャ。
「とにかくキス!!欲しい物何でもくれるって言ったんだからキスっ!!」
「.....」
命がいきなり静かになった。
昔、この感覚は、嫌というほど味わった事がある。