り
一陣の風が、俺達の歩みを追い抜いた。
しかし俺と、その隣を歩く我が妻、詩女 ( しおみな ) の間には隙間などなく、風はただ遠巻きに過ぎ去って行くだけだった。
そう、
俺と妻の詩女は別居中とはいえ、間違いなく相思相愛の間柄なのだ。
二人とも仕事は忙しいものの、なるべく時間を作って会う様にしている。 今現在もそれだ。
詩女は、齢三十になろうと言うのに若さを保っている。 結婚十周年を超えれば、男はだらしなく、女は女を捨てかねない(らしい)が、お互い、別居と言う形が、それを食い止めたようだ。
実際、俺も若く見られる事については人の事は言えない。
「貴時は元気か?」 貴時( たかとき)とは、俺と詩女の一人息子の名前だ。
百メートル間隔でファーストフード店が立ち並ぶ商店街を、のんびり進みながら、俺は挨拶がてらそれを口にした。
「ええ、元気よ。あの女の娘はどう?」
涼しい顔で詩女が返す。 あの女の娘とは、命(みこと) の事だ。
「ああ、元気だ。」
「それは残念だわ。」
悪びれる事なく、しれっと言い放つ。
詩女は命を嫌っていて、 決して名前で呼ぼうとしない。 命もまた、詩女を眼の敵にしている。
俺としては、仲良くしてほしいのだが、