ズドン、
とあるレベルの低い高校の体育館裏に、鈍い音が響きわたった。
ヒュ、と、風を切る音を立てて俺は涼しい顔で後ろへ下がる。
目にかかった長めの前髪をかき上げて、前方の地面を見つめる。
いや、今、俺の蹴りを腹に まともに食らってヒザをつく男を見つめる。
「も、いいか?」
俺は、不敵かつ見下した笑みを浮かべた。
挑発するつもりではない。ただ敵ではないから、見下すほど弱いから俺は笑っただけだ。
「すげえ!さすが 皆月 京次(みなづき、きょうじ)君!メチャ強ええぜ!」
「おお、3年の番格が相手になんねえよ!」
俺の後ろに控えている数人の、自称”京次の舎弟”が歓声を上げる。
「うぐ、おのれ....。」
膝をついた男が逆立てた金髪を乱したまま、悔しそうに俺を見上げる。そりゃ悔しいだろう、新入生である俺に3年生であるこの男は一方的にやられたのだ。屈辱以外なにものでもない。
「ああ、明人君が.....。」
「マジかよ、あの君寧明人(くんねい、あきと)君がよ。」
この学校の番格、3年の君寧明人。 その後ろでこの男の舎弟であろう連中が落胆の声を漏らしている。
「ふん。」
そいつらに一瞥くれた後、俺は踵を返した。そして肩越しに君寧明人を見ながら吐き捨てるように言った。
「俺は、お前らのグループには興味ねえ。でもそっちからちょっかい出してくんなら、こんなもんだ。」
そして教室に戻るため歩き出した。
後ろから動き出す気配はない。それこそ痛いぐらいに分らせてやったからだ。
それにしても、せっかくの昼休みをムダに使っちまった。もう購買部のハ゜ンも残ってねーだろうな、などと考えていると自称俺の舎弟が回りに集まってきた。
「やっぱ、すげーよな、京次君は。」
「ああ、もうこの高校をシメたも同然だぜ!」
俺は、鬱陶し気に一言。
「別に。」
それだけ言って、見返る事なく歩を進めた。
そう、
そうだ、俺にとって強くなった理由はこんな事のためではない。
歌が、聞こえる。
俺は思いっきり頭を振って、卑猥なそれをかき消す。
そうだ、俺が強くなった理由は、子供の頃の悪夢という、心に刻まれた現実を振り払うために。
「ーーーいつか、会いに来てね、 でないと.....
二度とあの魔女に負けぬために、俺は命がけで強くなったのだ。