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その少年を何と形容すればいいのだろう。
背格好が特別なわけではない。
歳相応の背丈。痩せ型でも肥満体でもない。しいて言えば引き締まった肉体だが、筋肉質というわけでもない。
身に着けている物は、やや子供らしからぬファッションではあるものの、奇抜というほどではない。
髪形も派手ではなく、さりとて地味でもない。長くはないし短髪でもなかった。
顔立ちは…整っている。美形といっても差し支えないのかもしれないが、そう表現するには彼はまだ幼すぎた。
つまり彼の外見は、これといって目を引くものではないのである。であるにもかかわらず、その少年を見かけた大半の人間(特に同世代の少年少女)は、彼を避けるかのような態度をとる。
それは仕方のない事なのかもしれない。そう、彼はそういう「雰囲気」を持っていた。
何か近寄りがたく、どこか危うい空気を醸し出す。
すなわち『皆月貴時』とはそういう少年であった。
K
K
―――そこは日本ではなかった。
―――そして現在でもなかった。
―――時代をいうなら、2年ほど前だっただろうか…
―――そうか…、夢を見ているのか……
だが、そんな思考は徐々に薄れていった……
K
……き、…とき……た…時………
どこからだろうか。だんだんと、俺に向かって声が近付いてきた。
「……貴時!!」
「え?」
気がつくと、目の前には見慣れた顔がある。
普段よりもややきつめの視線を向けてくる顔は、母親である詩女のものであった。
「え?じゃないでしょ。もう。さっきから声を掛けてるのにボーっとしちゃって。」
「あ…、あぁ。…ごめん。」
うまく思考が定まらないが、とりあえず謝っておく。母さんを怒らせるのは、ある意味で親父を怒らせるよりも怖かった。
本気で怒っていないのは分かっているが、何が火種になって不機嫌になるか分かったものじゃない。母さんの機嫌が良いに越した事はないのだ。
「ま、いいわ。じゃあ今からタクシーに乗ってホテルまで行くわよ。チェックインはまだだけど、場所を確認しておくくらいはいいでしょ。」
母さんが普段の笑顔に戻って言う。そして再び険しい表情を作りながら、
「今度また呆けてたら飛行場に置いて行くわよ。」 と釘を刺してきた。
(飛行場…、タクシー…、ホテル……)
頭の中でいくつかの単語がグルグルと回る。
周囲に目をやると、今いる場所は飛行場のロビーのようだった。
(…ああ、そうか。そうだったな。…何故今まで忘れてたんだ…?)
K
俺と母さんは、現在海外旅行中だった。
とはいえ、先ほどの状況で分かったかもしれないが、ついさっき目的地の飛行場に到着したばかりなんだけどな。
タクシーの窓から、後方へと緩やかに流れる風景に目を向ける。
俺の瞳に、見覚えのない街並みが映っている。
ハッキリ言って楽しくもなんともない。海外旅行に於いて、見た事のない風景を見るだけでワクワクする輩がいるらしいが、俺には理解不能な人種だ。
(俺にとっては、街の風景なんて、どこの国でも大差ないさ。)
だが隣の席に目をやると、そこにはワクワク顔の詩女がいる。
(母さんの場合は「ワクワク」の理由が違うんだけどな…)
「楽しみよね〜。海外って日本よりも、安値でシャネルやカルティエなんかのブランド品が手に入るらしいじゃない?他にもグッチやプラダ、エルメスにルイ・ヴィトン…」
(…ま、こんなところだよ…)
だが、そうでなければ母さんを海外旅行に誘った甲斐がないってもんだ。
そう。意外に思うかもしれないが、この旅行の発案者は誰であろうこの俺だった。