足元に転がった、成人男子の上半身。
普通の女性ならパニックに陥る所だろうが、この時ばかりは幸い、アケミは普通では無い。
懐から取り出した、極薄の円盤型刃物が一枚。 これこそ、アケミが普通では無い証である。
股を少しだけ開き、戦闘の態勢を整える。 その時右足が、成人男子の上半身に当たったが、まったく気にはならなかった。
目の当たりにした、『黒い瞳』の実力。
今まで、その仕事柄、強者と呼ばれる者達と沢山相対し、その中には、とても人間とは思えない戦闘能力を持った者も、確かに居た。
だが、そのどれと比べても、目の前にいるこれは、完全に別格だった。
手段方法問わず、何をしても絶対に勝てないと、自信を持って言える相手。 しかし、それでもアケミは、希望を持てる理由があった。
『黒い瞳』を一瞬だけ足止して、その間を縫って逃げられればそれで良いのだ。
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これまで、小さいながらも一つの戦闘集団を統括して来た自負がある。