クレイモア

屑男 撲滅抹殺委員会!

−前へ歩く−

『ちっ、』

 雪之絵真紀の優れた直感が警報を鳴らす。

冷戦の時代に、某国で初めてその存在が明らかになった白い死神。

 一応、世間的には殺し屋として分類されているが、その存在は『暗殺』を生業とする殺し屋とはまったく別物だった。

 某国の内戦の中、名を世に知らしめた彼は、敵味方両方から"兵器"とあだ名されていた。

 その後、民主制への変革の余波で国が解体した後、その活動を組織から個人に変えて世界中に広げた白い死神は、今やその名に「世界最強」の冠を頂いている。

 それは、殺し屋として多数の暗殺を成功させたからでは無い。たとえ暗殺を何度成功させたとしても、そう呼ばれはしない。

 「世界最強」の冠は、それだけの兵と戦い、勝利してきた証なのだ。

 雪之絵真紀は、こうして対峙してみて成る程と思う。

 白い死神は殺し屋ではない。格闘家でもない。 自我を持った"兵器"だ。

 今まで接触を避けてきた強敵。 本当なら戦いたくない相手。

 しかし、ここまで接近されてしまうと、逃げる素振りを見せた途端に殺されてしまう。 自分が食い止めている間に命だけでも逃がしたいが、当の命が瀕死の京次を残して逃げるとも思えない。

 ならば、命を救う方法はただ一つ。自分が、世界最強と呼ばれる『白い死神』を倒すことだけだ。

 雪之絵は、『白い死神』を差し向けたのは雪之絵御緒史だと思っている。その御緒史が、白い死神の手によって殺されているなど知る由も無い。

「これは、あいつが何者なのか聞くまでもねーな。 自分を神だとかぬかす野郎は、話の通じねえキチガイに決まっているからな。」

 貴時が、やれやれといった具合に立ち上がる。

 続いて赤い目をした命も、体を完全に向きなおした。

「...駄目よ。 あんた達は京次の側に居なさい。」

「輸血は、傷口を塞いだ後だよな?」

 雪之絵の言葉を無視して、エデン母に問いかけると、息を呑んで白い死神を見ていたエデン母が、カクカクと小刻みに頷いて見せた。

 白い死神の強さを、このメンバーの中で一番理解しているエデン父と母は、京次を諦めて、この場から離脱するか否か迷っていたのだ。

「だったら、あれを倒すぐらいの時間ならあるだろ?」

 エデン母の迷いを知ってか知らずか、貴時はそう言い放った。

 命も、その横で強く頷く。

「私も...」

「?」

「私達も戦います。」

グン

「加渓!?」

「お前は治療に専念してろ。」

「大丈夫、治癒も同時に行います。 別に、呪文は、必ずしも口に出して唱える必要はありませんから。」

「治癒と加渓の操作。この二つの呪文を頭の中で同時に唱えるのなんて、造作もありません。」

 鳳仙圭は、自分に呪術を施す際、アケミをフリーにしていたはずだ。

 どうやら、鳳仙圭にアケミが宛がわれ、桐子に加渓が宛がわれたのは、ただの年功序列ではなかったらしい。加渓が陸刀家最強の戦士であるように、それを操る桐子もまた鳳仙家呪術師、最高の才能を持っていたのだ。

 何気にエデン母が見ていると、のろりと動き出した陸刀アケミも身構えた

 "桐子と加渓が戦うというのに自分が何もしない訳には行かない。"と考えたのだろう

 そんなアケミを見ていたエデン母は、彼女に向けて何かを放り投げた。

「陸刀アケミさん、これを

「?」

 アケミが思わずそれを受け取ると、それは小さな注射器だった。

「私の秘密兵器。知ってらっしゃるでしょう?」

 勿論知っている。皆月京次とエデン母の戦いは、モニター越しに見ていた。

「量は半分にしてありますから死にはしませんわ。効力は三秒くらいしか効きませんが...」

「使う、使わないは、あなたの自由ですわ。」

「......」

「...本当は、群れるの苦手なんだけど。」

「まあ良いわ、戦い方は個人に任せる。 ただし攻撃のタイミングは素人の加渓に皆が合わせなさい。」


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