「はあっはあっはあっ」
「......」
貴時は、突如現れた人間がカズ子とタケ子と解って、拳銃の収まっている懐から手を抜いた。
カズ子とタケ子が陸刀アケミの手先だと知っている。しかし、この二人が直接的に雪之絵命に危害を加えられるとは考えられなかったからだ。
。
...今から十分くらい前に、サラの治療が終わった。
カズ子こと鳳仙桐子は、あらかじめ携帯電話で呼んでおいた救急車が到着した後、救急隊員にサラを託した。
本当はそのまま救急車の中でも治療を続けたかったのだが、霊力の源である月が沈んでしまい、水晶玉を持っていない桐子は、何も出来なくなってしまったのだ。
サラの乗る救急車を見送った後、アケミと命が気になってきた桐子は、元々は雪之絵真紀から逃れる為に用意しておいた運転手付きの車を使って屋敷に戻り、玄関の所で命の悲鳴を聞いた。
黒い瞳の発動も、桐子の中に流れる鳳仙の血が教えてくれた。 その後に聞いた命の絶叫、それが何を意味するかも容易に想像出来る。
「でも、まさか雪之絵真紀じゃなくて、京次さんが犠牲になってるなんて...」
加渓の背中から降りた桐子は、急いで京次の黒いコートのポケットを弄った。
「あ、あった!」
そう言ってポケットの中から取り出したのは、野球のボール大の水晶玉だった。
土手での加渓と雪之絵真紀の戦いの時、桐子から京次が取り上げた、あの水晶玉だ。
「何をするつもりだ?」
治癒能力のことを知らない貴時が、怪訝そうな目で桐子を見ている。
「...京次さんの怪我を治します。」
そう呟いた後、水晶玉を握り締めた。
もし戦いの最中水晶が割れてしまっていたら、ここでも中途半端に眺めるだけしか出来なかっただろう。
「そんな事できるのか!?」
「治します!!」
アケミと命、この二人は桐子にとって大切な人間だ。
そして、自分の行動が原因で死なせてしまうかも知れない二人、皆月京次とサラメロウ。
この二人は、アケミと命に取って大切な人間なのだ。
桐子はサラメロウを全力で治療した。 月が沈むまでの間に止血まではなんとか終わらせた。 今頃病院で治療を受けている筈だ。
しかし、分かる。
「私はアケミさんと命の、どちらにも顔向け出来ない!」
l。
「おい、鳳仙の人間は、誰もが怪我を治す力を持っているのか?」
「?」
「どうなんだ?答えろ!」
「も、持ってます。 私の知る限りですが...」
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