クレイモア

屑男 撲滅抹殺委員会!

−前へ歩く−

 呆然としているアケミの前で、黒い瞳と化した雪之絵命の影が揺らいでいる。

 その影の動きに反応したかの様に我に返ったアケミだったが、今度は恐怖の為に体の震えが止まらなくなり体の自由が利かなくなった。

「お、落ち着いて...」

 アケミは、目の前に佇む『黒い瞳』に聞こえないような小声で自分に言い聞かせる。

 この部屋に出口は二つある。 一つは、アケミから見て左側にある廊下へと通じる普通の扉。 もう一つは、右側にある回転式の隠し扉で、先程、鳳仙圭が使った隠し通路に通じている。

 アケミの場所から、左右どちらの扉も距離は変わらない。

 隠し通路は狭くて進みにくい場所だ。 もし、そちらへ逃げて黒い瞳が追ってきたとしたら、命よりも体の大きなアケミは、早々に追いつかれてしまうだろう。

 必然的にアケミは左の扉へと視線を送る。

 視線を黒い瞳に戻すと、発動直後の為か、黒い瞳の視線は焦点が合っておらず、アケミを見ている様で見ていなかった。

 まさしく、起き立ちの寝惚けている状態。

 ジワジワと冷汗の滲む中、「逃げるなら今」と考えた時、その左側の扉が乱暴に開かれた。

「!?」

 絶望と、逃げるのを邪魔された怒りにアケミが視線を向ける。

 扉を開けて部屋に入って来たのは、スーツを着た二人のSPだった。雇われた殺し屋でもなんでも無いただのSPではあるが、二人共、拳銃を携えている。

 アケミは知らない事だが、呪術で操られていない間のアケミが逃げ出さないように、鳳仙圭が部屋の外に見張りを用意しておいたのだ。

 当然ながら、黒い瞳も反応する。

 虚空を見つめていた黒い目が、開かれた扉へゆっくり向いた。

 二人のSPは、アケミと黒い瞳の両方を交互に見た後、明らかに怪しい黒い瞳に向けて拳口を向けた。

 『黒い瞳に、通用する、しないは別として、弾丸の攻撃を受けている間なら、逃げる隙ぐらいはできる。』

 生命の危機を目前にして、研ぎ澄まされたアケミの思考が、瞬時に最善の答えをはじき出す。

 しかし黒い瞳は、そんなアケミの脳みそを更に超えていた。

「!!」

ゴロン

え!?

「お、おおおお!?」

バンバンバンバン

ぎゅ

 SPの使うトカレフ銃は、初速が速いという特性を持っている。

 その速い弾丸を、近距離といって良い場所で体を揺らしてかわす「黒い瞳」の姿は、それはアケミに取って驚きの事実であった。

 しかし、今、驚愕の表情のまま、見開いた眼で凝視しているのは、実はそれでは無い。

4

影は 揺らいでなかった


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