「くおおっ...」
たたらを踏んだ竜王が、倒れてしまいそうになるのを何とか堪える。 気功法のおかげなのかも知れないが、京次の攻撃をまともに受けて、この程度ですんだのは称賛に値する。
上目使いで京次を睨み付けた竜王の顔に、意味ありげな笑みが浮ぶ。
異様な雰囲気を感じ取った京次が、攻め込もうとしていた足を止めた。
それを待っていたのか、竜王は全力で後ろに跳び、間合いを大きく空けた。
二人の距離、十メートル以上。 鎧を脱いだ竜王であっても、一秒以内では詰めることの出来ない距離である。
「いや大したものだよ。力だけで、この竜王を、ここまで追いつめるとは...」
余力を残しているのを示すように、落ちついた口調でそう言った竜王だったが、その言葉の内容は本気だった。
東洋の神秘と賞賛される”気功法”の技術も、速度重視の手数を増やした連打も、そして武器も、相手のたったの一撃で、全て粉砕されたのである。
それがどういう意味を持つのか。
『技術』『スピード』『パワー』戦闘に必要な三大要素全てを駆使した竜王を、皆月京次は、『パワー』ただ一つだけで、上を行って見せたと言う事だ。
「これで、スピードと技術が伴えば、『白い死神』とも互角にやりあえただろうに...」
京次との距離が空いているのを良い事に、竜王は徐に両手を前に突き出した。
とたんに、両手が燃えるような朱に染まって行く。
それを見ていた京次が目を細める。
手首にまいていたバンドが、熱によって溶けて行くのが見える。 それと同時に、顔や体からは血の気が引き、真っ青になって行く。
「私自身、結構ダメージを受ける技でね。 出来れば使いたくなかったのだが、そうも言ってられないのでね。」
笑みを浮かべてそう言った瞬間、竜王の手が小さく光を発した。
キラリと、ほんの小さな光の筋だったのだが、それは、京次の顔の側を一直線に通過して行った。
見間違いではないかと思えるほど、瞬く間の微かな光。
「知っているか? これが、気功法の究極奥義”百歩神拳”だ。」
「ウゼえよ。」
「!?」
「ウダウダ言ってねえで撃て。」
「馬鹿め!! パワーしか取り柄の無いお前に、この状況が打開出来るとでも、思っているのか!?」