完膚なきまでに嬲られた皆月京次が、雪之絵真紀の目の前で、自分に土下座をして謝るのを楽しみにしていた鳳仙圭だったが、その望みは雀将の頭部と共に破壊された。
一応、格闘家同士の戦いなので、それなりの攻防がなされると思っていたが、その内容は、とても格闘と呼べるものでは無かった。
『アケミ!雪之絵命の父親が、あんなに強いなんて俺は聞いていないぞ! 何故、今まで黙っていた!?』
ギラついた目でアケミを睨み付けた鳳仙圭だったが、驚いたのはアケミも同じである。 負けずに睨み返して、言葉をぶつけ返した。
『言える訳ないでしょ!? 私だって、京ちゃんがあんなに強いなんて、今の今まで知らなかったわよ!!』
そう、今まで、鳳仙は皆月京次という男を軽視していた。 鳳仙家が、京次を情報の収入源として使い続けていたのは、いつでも殺せるという考えがあったからだ。
それは、陸刀アケミも同じ事で、もし京次の実力を知っていたら、カズ子と二人で反乱を起こそうとは思わず、サラ同様、京次の元に走ったのではなかろうか。
「今更...」
鳳仙圭とアケミの会話を聞いていた雪之絵真紀が、思わず呟く。 戦いも終盤に入って、やっと京次の力を思い知るなど、鳳仙圭とアケミの馬鹿さ加減を暴露しているとしか思えなかった。
しかし、京次を世界一理解していると自負している雪之絵真紀でも、今回は驚いている。
雀将ごときに遅れを取るとは、はじめから思ってはいないので、戦闘能力に対してではない。
何の迷いもなく、頭を踏み潰した、その残酷な行為に対してだ。
京次に睨まれた竜王は、その視線を真っ向から受け止めながら、自分の鎧に手をかけた。
すると、スイッチが入ったかのように、隙間なく繋がっていた鎧は、各パーツに分れた。
胴体のパーツ、胸のパーツ、腕のパーツ、そしてマントと繋がった肩のパーツが、竜王の体から滑り落ちていく。
黒い通路に落ちていく鎧。
それらが、竜王の足元に落ちた時、屋敷全体が大音響と共に揺れた。
鎧が地に落ちた衝撃は、二階一番奥の、鳳仙圭とアケミのいる部屋までも伝わってきた。
「は、はははっ、竜王が相手だ。 雀将のようには行かないぞ?」
臨戦態勢を整えた竜王を見て安心したのか、鳳仙圭が笑い出した。
竜王の鉄の鎧は、元々自分の身を守る為のものではない。 パワーリストやパワーアンクル同様、体に負荷をかけて鍛える為のものだ。
「でも、防御力は落ちるわ。 京ちゃんの攻撃力なら、生身の相手なんて一撃で倒せる。」
倒された雀将を例に取り、そう言ったアケミだったが、その言葉はあまりに虚しかった。
脱ぎ捨てて地響きが起こる程の重量から開放された竜王の体は、想像を絶するスピードとパワーを発揮できるだろう。
そして何より、竜王の本当の実力は、もっと別な所にある。 それを示すように、鳳仙圭はアケミに笑いかけた。
「生身だから倒せる? 言っておくが、竜王は今でも強固な鎧を着ているんだぜ?」