鳳仙圭が、皆月京次と戦わせようとしている二人の実力は、アケミもよく知っている。
『いきなり、あの二人を使うの!? アンタの雇った殺し屋の中で、唯一『白い死神』や『エデン』に匹敵する実力を持った者達なのよ!?』
アケミは、鳳仙圭が四つも切り札を用意していた事など知らない。
しかし、皆月京次と戦おうとしている二人の男は、確かに切り札の中の一つである。 長期間の交渉の末、最近になってやっと雇えたのだ。
アケミは、対雪之絵真紀戦に使うものと、勝手に思い込んでいた。
京次が殺されてしまう事への恐怖心を露にして抗議するアケミを一瞥した後、鳳仙圭は芝居掛かった口調で喋り出す。
『しかし、キミの遺伝子のせいで、あの真紀姉さんから、こんな稚魚が産まれてしまった。 これは極刑に値するね。』
鳳仙圭の言葉など、全然聞いていなかった雪之絵真紀が、廊下の先にいる二人の敵から、京次へと視線を戻した。
「京次、一応あいつ等は名の通った殺し屋よ。 前に私と戦った、『エデン』と同格と思っておいた方が良いわ。」
「ふーん...」
雪之絵真紀の言葉は、決して脅しではない。 それなのに、なんとも頼りない返事が京次から返ってきた。
「サラメロウや、桐子と加渓の時のように、甘い考えで勝てる相手じゃないって言ってるの。」
「雪之絵、お前、命に手を上げた事ってあるか?」
「?...ないわ。」 こんな時になにを言い出すのかといぶかしみながらも、雪之絵が答える。
「だよな、命って、殴られるような悪い事、全然しないもんな。まして、あんな馬鹿に暴力振るわれる理由なんて、何もありゃしねーよな。」
「京次?」
「手出しすんなよ、雪之絵。」
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最終話、(その八)、終