。
言葉を失ったアケミと、余裕の笑みを浮かべている雪之絵真紀。
二人が膠着状態になるまでの一部始終を見ていた鳳仙圭は、恐怖で金縛りになっていた体を、悔しさが解放した。
「くっ!」
屈辱と怪我の痛みに顔を歪ませたまま、辺りをキョロキョロと見回した後、すぐ横にある扉、すなわち雪之絵真紀が覗き込んでいる部屋の、その隣の部屋の扉を開けた。
「?」
それに気が付いた雪之絵だったが、鳳仙圭の動きは意外と素早く、止める前にその部屋の中へと転がり込んでいた。
部屋に入った鳳仙圭は、四つん這いのまま、テレビの前まで行き、すぐさまスイッチを入れる。
鳳仙屋敷の全てのテレビは、監視用モニターとしてだけでなく、テレビ電話としても使用可能だ。
鳳仙圭の付けた画面には、驚いた顔のアケミが映った。 アケミからすれば、雪之絵真紀が映っていた画面がいきなり鳳仙圭に変わったので驚いたのだろう。
「もういい!! アケミ!雪之絵命を殺せ!!!」
「で、でも、」
「お前に選択肢は無い!俺に黙って従え!!」
「でも!!」
アケミには、この時の鳳仙圭が、物事が上手く行かず癇癪を起こした子供にしか見えなかった。
雪之絵真紀は、命を殺せば鳳仙桐子や陸刀加渓それからサラメロウを殺すと言っているのだ。
陸刀加渓とサラメロウは兎も角、鳳仙桐子は鳳仙圭の妹である。
もしここで命を傷つけたら、アケミ自身もだが、後々鳳仙圭も後悔する事になる。
そう思い、鳳仙圭の命令を否定したアケミだったのだが、恥をかいたばかりの鳳仙圭は、自分の奴隷であるアケミまでも自分に逆らった事で更に逆上した。
一瞬、鳳仙圭の水晶に映っているものが何なのか、アケミには理解できなかった。
ふらりと立ち上がり、命を残したまま、モニターへと近づいて行く。
噛り付くようにモニターを見つめたアケミは、そこでやっと、映っているものの状況を理解した。
「どういうこと?」
カタカタと歯をならしながら、やっとの思いでそれだけ言葉にしたアケミに対し、その様子を見て何故か少しだけ落ち着いた鳳仙圭が、ニヤリと笑って自慢気に説明を始めた。
「桐子はなあ、お前同様、ずっと前から俺の操り人形なんだよ。 だから桐子を使って加渓を操り、サラとかいう欠陥品を殺させたのさ。」
「嘘、でしょ?」
「嘘?」
「それとも、サラメロウとか言う欠陥品のように、桐子と加渓も殺して欲しいか!?」
「フ、フザケルナ...」