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「ボサっとしてるんじゃない!!」
現在の生き残りを援護する為に上げた拳銃。
しかし、銃口はエデンの父親をしっかり捕らえながらも、引き金を引くことは出来なかった。
エデンの父親は、貴時が自分を拳銃で狙っていると、その目で見止めているはずた。 それなのに、まったく動じる様子もなく、その場に佇んでいる。
転がるように逃げてきた高森夕矢と陸刀のヒットマン残り三人。 場合によっては、玄関の外まで逃げようかという勢いだったが、各々の、ここに居る理由がそれを止めた。
血の気の引いた顔で、後ろを振り返って見ると、エデンの父親はその場から動いてはいなかった。
「? 何故、向かって来ないんでしょう?」
あの朱吏陽紅をバラバラにした実力を考えれば、高森の疑問も当然。自分達など簡単に倒せるはずだ。
窮鼠猫を噛むとは言え、ネズミが猫に勝つのは不可能。 自分達を警戒して動かないのだとは、とても思えなかった。
「さーな。だが、逃がすつもりは無いみたいだぜ?」
貴時の言う通り、その場から動かないとはいえ、体から滲み出る殺気は、ここにいる全員が感じていた。
背を向けようものなら、今度こそ、全員瞬殺されてしまうだろう。
だが正直言って、今の高森達には、エデンの父親が動かない理由は問題ではない。『あの強力な敵から距離を空ければ、自分達は死なないで済む。』この現実そのものが重要なのだ。
一応、安心した高森夕矢は、倒れた朱吏陽紅の亡骸に目を向けた。 同じく、赤い髪の少女も、視線を向けている。
「一体何者なんですか? ”エデン”と言うのは!」
珍しく怒りの感情を露にした高森が、基本的な疑問を口にする。
今までそれらの疑問は、目的を果たした後、すなわち雪之絵命を救い出した後にしようと考えていた。
しかし、尊敬できる強さと人徳を備えた朱吏陽紅が殺された今、もう我慢しきれない。
「まったく雪之絵御緒史も、余計な連中を雇いやがる。...そういえばお前、俺達が何故、雪之絵命を攫おうとしたのか知っているのか?」
「ええ、漠然とですが...」
皇金の問いに、昔のことを思い出しながら答えた。
以前入院した時に、皆月京次から、ある程度は聞いている。 『命が、何らかの理由で、母親の血筋の者達に狙われている。』そのぐらいではあるが。
漠然とでも解っているなら話は通じると考えた皇金は、何の前置きも無く話を進める。
「エデンの家族はな、大国の出身なんだが、その国の殺し屋組織に狙われているんだ。」
「同じ、殺し屋同士でですか?」
「朱吏が言っていただろう? 昔、エデンの父親が正義の味方をしていたと。」
エデンの父親がSPであった事は、確かに朱吏陽紅が言っていた。 相当優秀であったというのだから、裏家業の者達は、散々煮え湯を飲まされて来たのだろう。
そこに、大怪我をしたエデン父親の情報。 いや、その組織こそが大怪我を負わせた張本人とも考えられるが、兎に角、これまでの恨みを晴らそうと、エデンの家族は狙われ始めたのだ。
「それで、世界中逃げ回った挙句、最後に行き付いた所が、雪之絵御緒史の所って訳だ。...雪之絵御緒史も、よくリスクを承知で雇ったものだ。」
「リスク?」
「ああ、大国の殺し屋組織に怨まれているんだぞ? それを雇うと言う事は、自分も大国の殺し屋組織に怨まれると言う事さ。」
「腕は立つエデンだが、世界中逃げ回る間、まともに雇ってくれるクライアントは居なかっただろうな。」
「...まあ、臆病者の雪之絵御緒史の事だ。 雪之絵真紀が何より怖かったんだろう。」