]

,り

クレイモア

屑男 撲滅抹殺委員会!

−前へ歩く−

 確かに、京次の言うとおりだった。 毒の香水は、エデン母の狂言である。

 筋肉強化剤と、もう一つ用意していた切り札。

 解毒剤を奪われるという、過去の失敗を逆手に取った、”死の接吻”。

 自分の命と引き換えに、相手を殺す手段。その2であった。

「...何故?」

「俺は、お前が現れてから、念の為に呼吸を止めてたんだよ。 だから、ほとんど喋らなかっただろーが。 ...もっとも、お前がベラベラ喋るから、その心配は無いと解ったがな。」

「何故?」

「雪之絵に感謝するんだな。 冷静さ取り戻していない俺だったら、間違い無く殺していたぜ。」

「そうじゃなくて!」 

「何故、私を助けるのか聞いてるのですわ!!」

「......」

「自分の身を犠牲にする女ってのは、その理由が子供にあると相場が決まっているからな。」

「あからさまに手加減して戦えれば楽なんだが...」

「俺は、甘い男だと思われるワケには行かねーんだよ。 そうでないと、鳳仙圭ってヤツが命に手を出しやがるからな。」

 絶句するエデン母を見ながら、人差し指で、コナゴナになったテレビモニターの残骸を指差した。

「だが、カメラ付きのモニターは、ぶっ壊したし。 マイクも、たった今踏み潰した。」

 京次が足を上げると、潰れた小型マイクが現れた。

「モニター越しとはいえ、俺の戦いぶりを見ていたのなら、まさか俺が手を抜いて戦ったとは思わないだろう。」

 話をしていて、鳳仙圭の命に対する暴力を思い出したのか、京次のこめかみに血管が浮き出た。 

 しかし、それよりも、京次の言葉に気になる個所があったエデン母は、身を乗り出し、睨まれるの覚悟でそれを聞きただす。

「今、カメラ付きのモニターを、壊したと言いました?」

「ああ? 言ったがどうした?」

 どうしたではない。

「まさか、狙って......」

 京次に殴られて、吹っ飛んだエデン母がぶつかったから、モニターは壊れたのだ。

 エデン母が、ゴクリと生唾を飲み込む。

「それから、手を抜いて戦ったというのは...」

 いや、それは、聞くまでもあるまい。

 今思えば、皆月京次が手を抜いている場面はたくさんあった。

 布に隠れたエデン母にみまった手抜きの掌打。 蹲った状態からの、外れたアッパー。

 そして、即死拳の直撃を受けて生きている現実。

 全てを理解した。

 手を尽くして戦ったエデン母。

 完敗とい名の敗北。 いや、そんな甘いものではない。

 皆月京次は、エデン母を相手に演技をしていただけ。

 京次のいる土俵に、エデン母は上がることすら出来なかったのだ。

「く、ふふふ。」

 幾分時間を置いた後、エデン母がまた笑い始めた。

「まったく、信じられませんわ。 あなたなんて、私は全然知りませんよ?」

 何の話だか京次には解らなかったが、エデン母は、こう言いたいのだ。

 世界一のSPである主。それをサポートする妻。 エデンの家族は、殺し屋家業に転職する前から、相当な有名人だった。

 そんな二人の仕事柄、表裏問わず、世界各国の強者の情報は仕入れた。 それも、かなり詳しく。

 しかし、その中に、皆月京次という名前は、間違いなく無かった。

「完全無名の男。 それが、何でこんなに強くていらっしゃるの?」

「強くなる為に努力したからだろ?」

「私より強い戦士は、それは沢山いますわよ? でもね、無名というのはありえませんわ。」

 金の為、名誉の為、生きる為、自分の存在を誇示する為、武道の道を極めんが為、ただ暴力が好きなだけ...どんな理由にせよ、目的を果たそうとすれば、おのずと名前は売れて行くものだ。

「人間は、目的が重要なら重要なだけ努力できるもの。 無名のままでいられる重要な目的って、一体何ですの?」

「...お前、馬鹿か?」

「自分のガキを守る。これより重要な目的が、この世にあんのか?」


前へ、  次へ、