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延々と続く廊下の片側には、これも無限を思わせる沢山の部屋が並んでいる。
その部屋の全てに、当然ながら扉が設けてあるのだが、皆月京次の目の前にポッカリと開いた暗い穴は、そんな設計上あるものとは違う。
廊下と部屋を繋げる暗い穴。
皆月京次の一撃に吹っ飛んだエデン母が、その体で開けた穴だ。
戦闘中とは打って変わったノロマな動作で、その穴を潜った京次が、部屋の中に足を一歩踏み入れると、革靴の底から、ジャリッという音が聞こえた。
エデン母が部屋の中に飛び込んだ時、監視用のテレビモニターを破壊したのが原因。 テレビの残骸の中に、エデン母が横たわっている。
ピクリとも動かないエデン母に目もくれず、京次は無言で辺りを見まわす。
暗くて様子の解らない部屋の片隅に何かを見つけると、そこまで歩いて行き、右足で軽く踏み潰した。
「く...ふふふ」
突然聞こえた笑い声。
京次が、特に驚いた様子も無くエデン母に顔を向けると、横たわったままのエデン母が、こちらを見ていた。
生気の感じない顔色は、部屋の薄暗さと相俟って、ドス黒く見える。
「...仕留め損なったみたいですね...私はまだ、生きてますわよ?」
そんな強気な言葉とは裏腹に、表情は疲労と苦痛に歪んでいた。
軋むような動作で体を起こそうとしても、自身の体が受けたダメージがそれを許さない。
何度試みても、体を捻るのがやっとのエデン母は、悔しそうに歯軋りした後、結局、うつ伏せになった所で諦めた。
「まともに動けませんわ...でもね、私は負けないんですよ?」
そう言いながら、不敵な笑みを浮かべたエデン母は、床に顔の右側を擦り付ける。
「雪之絵真紀さんとの戦いで、私が、毒の香水を使ったのは覚えておいででしょう?」