生き物の様に動き、敵を攻撃するエデン母の弁髪。
皆月京次は、それを知っている。
相手を幻惑し、隙を突くのがエデン母の戦法。
しかし、弁髪が京次の虚を突けないと解っているエデン母の行動は早い。
以前の戦いでは、弁髪に含まれた油が燃えるとその灰は催涙ガスになったが、今回のように狭い場所では、自分にも害が及ぶ為にそれは無い。
予想していたのか、皆月京次に慌てる様子はなかった。
エデン母の言葉通り、爆発に匹敵する勢いで炎は一気に燃え上がり、筒を形取って京次の体を包み込んだ。
弁髪には、本当に火薬が仕込まれていたのかも知れない。炎の筒は天井までも届いている。
それを見ていた鳳仙圭の顔が青ざめる。 いかに燃えない薬品を屋敷の材木に染み込ませているとはいえ、耐久力を超えれば流石に燃える。
「!!」
「踏みつけただけで!?」
皆月京次が、無人の野を歩くがごとく一歩踏み出しただけで、業火は、まるで自ら門を開くように真っ二つに別れた。
「...ちっ!」
流石に一瞬怯んだエデン母だが、すぐに立ち直り、次の行動に移る。
京次が左手を故障している事は知っている。
小指を失った左手は、その攻撃力も元の半分にまで落ち込んでいる筈だ。
仮に左拳の攻撃を食らったとしても、雪之絵真紀の蹴りをも受け流したエデン母の柔らかい体は、致命的なダメージを受けないとの自信があった。
しかし、だからと言って無策で攻め込むような愚かなマネはしない。