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『接待』が終了し、アケミを汚して楽しんだ財界の二人が『接待室』から出た時、初めて鳳仙 圭の持っている水晶玉の光が消えた。 この時初めて、アケミは鳳仙の呪縛から解き放たれたれる。
鳳仙 圭は、いつも男達が『接待室』を出てから後に、アケミの呪縛を解く。
アケミがこの男達を殺してしまわないようにとの配慮なのだが、実際はそんな心配は無用だ。 アケミは自分で動ける体力など、微塵も残されていない。
既にこの時、財界の男二人は身だしなみを整え、いっぱしの姿を見せている。 誰も、一人の女をオモチャにして楽しんだ後とは思わないだろう。
カズ子は、自分の横を財界の男達が通り過ぎる時、背を向けて見ないようにした。
アケミを汚したこの男達の歪んだ笑みを見たら、タケ子を操つれるようになったカズ子は、この男達を殺してしまうと思った。
歯を食いしばって怒りを押さえている内に、鳳仙圭に連れられた財界の男二人は地下室から出て行った。
力が抜けると同時に、アケミの様子が気になって『接待室』の中を覗く。
怒りの為に赤らんでいたカズ子の顔が、急激に青くなった。
「!!」
アケミがベットの上から顔だけを覗かせて、敷いてある絨毯の上に胃の中の物を吐いていたからだ。
「アケミさん!!」
叫んだ後、ベットに仰向けになっているアケミに駆け寄った。 しかし、直ぐにその足を止める事になる。
アケミの吐いた、その汚物。
小便が胃液の為に濁り、溶けはじめた白い精液が一面にツブツブを造っていた。 蛆虫の沸いた肥溜めを連想させるそれは、実際の不潔さもそれに次ぐと思われた。
実際に肥溜めに溜まるべき物が、今回確かにアケミの口から入っている。
肥溜めを知らないカズ子からすれば、こんな汚らしい物を見たのは初めてだった。
触るは勿論、正視するのも辛い醜悪な物を、今、アケミが口の中から吐き出したのだ。
カズ子はそれを目の当たりにした時、足が止まった。 そのつもりがないにせよ、カズ子は確かにアケミを汚い物として認識してしまったのだ。
汚物を吐き終えても、顔を上げないアケミ。 しかし、カズ子のそんな雰囲気を感じ取れないはずもない。
「そうね、...今まで、精液なんて幾らでも飲まされたし、小便を直接口に流し込まれた事だって、幾らだってあるわ。」
「あっ、...」
「わっ、わたしっ、...」
...あ、
「アケミは、ベッドから足を下ろして立ち上がる。 一瞬よろけたが、倒れはしなかった。
これ以上、カズ子にみっともない姿をさらしたくはない。.....」
「...ゴメン冗談よ。」
「あ、あのっ、アケミさんっ。」
何も考えずにしゃべり出そうとしたカズ子を、アケミが制する。 だが、思いがけずアケミの声は優しい。
「いいから、それより鳳仙家から逃れる為に、私に手を貸してね?」
カズ子は、力強く肯いて見せた。
「勿論です!たとえ死んでも、私とタケ子の二人でアケミさん救って見せます!!」
先ほどは、タケ子を使うのを我慢したカズ子だったが、今は刺し違えてでアケミを助ける覚悟があった。
そうでなくては、アケミに対する先程の自分自身の態度が許せない。
だが、アケミは少し笑って頭を振る。
「嬉しいけど、それは私が困るわ。 行動は、もう一つ決定的な戦力を手に入れた後。」
「ただ恨みにかられて鳳仙と陸刀、そして雪之絵の血筋を殺しまくる その現象。”雪之絵 命”は”黒い瞳”になる可能性があるのよね?」
「可能性ではありません。 絶対です。」
カズ子が強く答えると、アケミは嬉しそうに肯いた。
「私は、どんな手を使ってでも鳳仙家から逃れて見せるわ。」
再び歩き出したアケミに、再びカズ子は声を掛けようとしたが、それに気が付いたアケミが先手を打った。
「ホントに大丈夫よ。 今日のなんて、どーって事ないわ。」
後ろ手に手を振って、シャワー室に入っていくアケミ。
ドアの向こうから鍵を閉める音がした。