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脇の下にある静脈を指で圧迫し、肩から心臓へ向かう血液の流れを止めた皆月京次は、手の平の傷から血を垂れ流しにして、毒を追い出そうと考えた。
京次は、かつて自ら舌を噛み切り、死なない程度の出血量を、その身で知っている。
風穴の空いた手の平からは、絞り出すまでもなく大量の出血が続き、出血死しないギリギリまで、血を毒ごと外に追いやっていく。
「こんなモンか?」 出血の為、遠のく意識を、なんとか繋ぎ止めながら、今度は脇の下の動脈を指で圧迫すると、それまで激しく続いていた出血は、嘘のように治まった。
それが功を奏したのか、毒に冒された時から、それ以上容体が悪くなる事は無かった。 しかし、悪くならないかわりに良くなる事もなく、今までに経験の無い苦しみを味わい続けるしかない。
ついでに、毒に冒された体は高熱を発し、相当な寒気を感じて身震を始めた。
今の体温は、四十度以上は確実である。 四十度の熱が”ついで”扱いの辛さなのだから、『動くと死んでしまいますわよ。』のエデン母の言葉も、決してオーバーでは無いと解ってもらえるだろう。
京次は、丘の上の野原で戦う、雪之絵真紀とエデン母に視線を向けた。
視界が擦れてよく見えないが、雪之絵が押されているであろう事は、想像出来た。
おそらく、雪之絵は認めないであろうが、彼女は焦っている。
娘の命がいるアパートへ向かう前に、エデン母を仕留めたいと、心の何処かで考えているのだろう。
理由は言うまでもなく、エデン母をこのまま放っておけば、皆月京次が殺されるからなのだが、そんな心理状態で戦いを有利に進められる程、エデン母は弱くない。
「ちっ、」
京次は、木の幹にもたれて、身をずり上げる様にしながら立ち上がった。