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京次が出かけた後、命は寝てしまったのか、篭った自室からは何の物音もしない。
自分の部屋を持たない居候のサラメロウは、日々の生活のほとんどを、居間でテレビを見る事で過ごしていた。
ドラマ、バラエティー、ニュースと、特に好みがある訳でもなく、スイッチを入れて、その時放送されている番組を、そのまま眺めている。
何時も無表情なサラは、テレビを楽しむのではなく情報収集の為に見ていると思われがちだが、実は結構楽しんでいた。
今、サラの見ているブラウン管では、お笑い芸人が早口のしゃべりで、爆笑トーク真っ最中である。
それを、何時もの様に無表情で眺めるサラメロウ。
「.....」
この時、サラは既に暗くなった窓の外へと視線を移す。
表情同様、張り詰める神経。
カラカラカラと、この家の者の仕業であるかの様に、アパートの中庭に通じる窓が、自然な音を立てて開かれた。
既に夕焼けから、闇夜に移った窓の外に立っていたのは、鳳仙家ゆかりの刺客。 暗闇に沈んでいる為、はっきりした姿は解らないが、大男一人と小男一人の計二人だ。
命は勿論だが、今ではサラも鳳仙家のターゲットにされているはずだ。 何時か現れるだろうと思っていた相手なので、今更慌てはしないが、義肢を外したこの状態では、戦うはおろか逃げることすらままならない。
この状況を好転させる方法はないかと考えをめぐらせていると、二人の刺客の内、小男の方が動いた。
「!」
悲鳴を上げる間も無く、小男の腕がサラ首に回される。
小男の動きが全然見えなかった訳ではないが、やはり義手義足を外した今の状態では抵抗のしようがない。
「お前がサラメロウだな? 雪之絵命はいるか?」
サラを何時でも殺せる状態に取った、後ろの小男が、耳元で囁く。
「 ミコトは、この家のヘボ親父と出かけたわ。 残念だったわね。」
咄嗟に口をついて出た嘘。
義手義足を付けていない自分は、戦力にならない。 もし、ここで大声を上げて、命を呼び出してしまったら、命一人でこの刺客二人を一度に相手する事になる。
命なら絶対勝てると言う自信が、サラメロウには持てなかった。
何故、命を庇ったのか、落ち着いて考えたら首を捻る所だが、今のサラにはそんな猶予はあたえられない。 突然伸びてきた、もう一方の手が、サラの胸を青いマントの上から握り締めた。
「あ、」
自分の胸を触る男の手を、人事の様に眺めながら、サラは情けない声を上げた。
「雪之絵命は外にいるヤツが犯し、お前は俺が自由にする事になってるんだよ。」
男の手が、マントの下から入り込み、子供の頃切断された、太股の傷痕を触る。
「ふ、やっぱり義肢は外されているんだな。 でも頚動脈噛み切られたらかなわんから、後ろからヤらせてもらうぞ?」
続いて、太股から、内股へと刺客の手が移動する。
サラは、陸刀に飼われていた時、アケミに守られていたので、女として辱めを受けた事は一度もない。 その為、
そっち方面の危機は、一度も考えた事がなかった。
「.....」
股間を下着の上から撫で回す刺客の指を感じながら、サラは自分が何をされているのかを考える。
混乱して思考の止まっていたサラの頭が、やっとの思いで、自分が犯されそうなのだと把握した時には、既に下着の中に刺客の手の進入を許していた。
陰毛を、刺客の指が別けて進んでいるのを感じる。 その指は真っ直ぐ、ワレメに向かっていた。
「いやっ!」
産まれて初めてかもしれない、女らしい悲鳴。 しかし、その貴重な言葉は、これによって相殺された。
「てい!」
気合と共に、命が倒れて頭を抱える小男を蹴飛ばすと、その小男はサッカーボールよろしく窓の外へ、すっ飛んで行った。
命は、目を細める。
闇に包まれた窓の外には、今蹴飛ばした小男以外に、縦横両方でかい大男の姿があった。
「ほらっ。」
抱えていた義足を、無造作にサラの側に落っことす。
「私は、アンタの事なんて助けないからね!? 自分の身は自分で守れ!」
言いながら、外の刺客に向けて歩き出す命。
では、さっきのロケットパンチは何だったのかと聞きたい所だが、その答えによっては、お礼を言わねばならなくなるので、サラは触れない事に決めた。
理由は、ただシャクだから。
「まー、アンタが義手義足付けている間に、外の二人は私が片づけてると思うけど。」
「心配御無用。」
「私にとって義肢を身につけるのは、ミコトが靴を履くのと同じよ。 時間なんていらないわ。」
「.....」
振り向いた命が、サラにも警戒心を向ける。
「...悪いけど、今回の私は、ミコトの相手をしている暇なんて全然無いから。」
最近見られなかった殺し屋としての目が、鳳仙の刺客二人に向けられる。
「この連中、ミコトより百倍嫌いだからね。」
「じゃあ、一時休戦。 でも私に背を見せたら、容赦無く蹴り入れるからね?」
ま
れ
第六話。(その二)おわり