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屑男 撲滅委員会!

−ブラック・アイズ−

 エデンの母親の弁髪が、後ろに下がろうとした雪之絵真紀の行く手を阻む。

 頭に巻き付けた黒と紫のターバンの中に、相当な長さが隠されていた弁髪は、雪之絵を巻き込む様に高速移動して見せた。 その動きは、まるで生き物だ。

「緑は神経毒。黄色は、出血毒と溶血毒。」

「三つに侵されたら、流石に死ぬかもね?」

ヒュ 

 おもむろに出された、エデン母の前蹴り。

 最短距離を行く攻撃でありながら、先ほどの、体の後ろから放たれた手刀よりも遥かに遅いスピード。 しかし、不用意な行動と思ってはいけない。

 異常なまでに柔らかい間接と、筋肉に余力を残した遅い蹴りならば、雪之絵が上下左右どちらに逃れようと、途中で軌道を変えて、追いかける事が出来る。

 緑のペディキュアも、マニキュア同様痺れ薬なのは間違いない。 かすり傷をつけるだけで行動不能にできるエデン母の攻撃に、打撃のダメージは必要ないのだ。

 後ろに引くしか、この蹴りから逃れる道の無い雪之絵は、何の迷いもなく後ろへ飛んだ。

 弁髪の中で、毒の染み込んだ場所は青と黄色の部分のみ。

 しかし、雪之絵は、赤い部分さえ触らない。

 エデン母は、敵に弁髪の赤い部分を掴まれる事を前提にして、そこに油を塗っていた。

 掴まれた弁髪は、油の為に拳の中を滑り、最後は毒の染み込んだ場所が到達するという寸法だ。

 油の染み込んだ弁髪は、雪之絵の髪の表面を滑る。そのため、摩擦で髪の毛が切断される事もなく、盾の代わりを充分に果たしてくれた。

 雪之絵は、エデン母の弁髪に油を塗るという敵を罠にかける行為を、逆に利用したのである。

 高速移動する弁髪の黄色と緑の部分が通り過ぎる時、雪之絵の髪が初めて乱れる。 しかし、その身に傷を負う事は最後まで無かった。

「へぇ...成る程。あなた、お強いですわね。」

 距離を取った雪之絵に対し、弁髪を引き戻したエデン母が、関心した様に言った。

「あなた、私の戦った相手の中で、十番目ぐらいに強いですわ。」

 確かに『エデンの母親』は強かった。 巨大な蠍に纏う四匹の毒蛇。 それが彼女への率直なイメージである。


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