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たとえそれが、安いホテルの一室の物であっても、ベットとは、元来、丈夫に造ってあるものである。
それがギシギシと軋む音を立てる時、どんな行為がベット上で行われているのか、考えるまでもない事だろう。
ねオレンジ色の朧げな光の中、二人並んでも有り余る大きさのベットの上で、上半身を起こした女が上下に動く。
「どうした?今日はやけに静かじゃないか?」
そう言ったのは、女の下で、その秘所にいきり立った自分のモノを収めている男。
皆月 京次だ。
ぎしっ、ぎしっ、ぎしっ、ぎしっ、ぎしっ、ぎしっ、ぎしっ、ぎしっ、
”元”ソープランド嬢、アケミは、女の声も男をイカす道具である事をよく理解している。
ソープランドの関係でしかなかった頃から、外で会う様になるまでの現在、数限りなく京次とアケミは絡み合って来た。 今までアケミは、京次をイカすため、ささやき、喘ぎ声を駆使してきた。
しかし今回に限り、声はおろか口さえ開こうとしない。
京次が不思議に思っていると、怪しげな視線を向けるアケミが、思惑ありそうな笑みを浮かべ顔を近づけて来た。
キスするつもりなのだろう。 そう理解した京次はアケミの唇を受け止める。
京次とアケミの唇が重なる。
「!?」 瞬間、京次が眉をひそめた。 アケミの口内から、大量の唾液が流れ込んで来たからだ。
二人の性行為が始まって、すでに半時は経っている。 その間一言も喋らなかったのは、このためだったらしい。
アケミがため込んでいた唾液は相当な量で、京次は喉を鳴らして飲み込まねばならない程だった。
思いがけないアケミの新しい攻撃。 京次は全身に張り巡らせていた”性に対する防御”が事切れた。
「くっ、」 思わず出た京次の喘ぎ声。
それを聞いたアケミが、嬉しそうに男をイカす道具を使う。
「京ちゃん、私の膣でイッてね?あなたの精液を私の子宮が欲しがっているの分かるでしょう?」
耳元での囁きの後、続けざま舌先を使って耳を嘗め回す。
飲みこんだ男の精液の回数は、確実に千を超える性器と、その人数分イカせて来たテクニックを全力で使う。
膨らんだ二つの胸と、蛇口の様に体液を流す性器は勿論、口から両手から髪の毛の先まで使って執拗な愛撫を繰り返した。
もし、京次でなければ、とっくに爆発していた事だろう。
「...危なかったな。」
絶えず動いているアケミを見上げながら、何時の間にか京次は余裕を取り戻していた。
「これでも、駄目なの?」
あきらめの入ったアケミの言葉と共に、腰の動きが緩慢になった。
「まだ、私より、雪之絵 真紀の方が実力上って事?」
下唇を噛んで呟いたアケミに対し、京次は何も答えなかったが、まったくその通りだった。
京次は今だかつて、雪之絵 真紀ほどの快感を感じた事はなかった。
大嫌いな相手に、本気で嫌がって抵抗したのにイカされたのは、後にも先にも雪之絵 真紀ただ一人だけだ。
まして、嫌いではないアケミに対し我慢出来るのだから、その実力は雲泥の差があると言っていい。
『 私と勝負しましょう? 我慢している京ちゃんイカす事が出来たら、京ちゃん私の物になってね。』
そうアケミが切り出したのは、随分前の事。 OKした京次とSEX勝負を始めてから、アケミは連戦連敗である。
「残念だったな。」
そう言いながら、京次は自分とアケミの体の位置を上下入れ替えた。
「あっ...」 洩らした声は、未練持ちながらも快楽への期待にはずむ。
「我慢せずに、イキたければイきなよ? 俺がイクの待っていたら気が狂うぞ。」
「人聞き悪いなぁ。」
言葉が終わるや否や、京次が激烈に動く。
「っっあっーーーーーっ!!」
アケミの負け惜しみにも似た恨み言は、出さざる負えない喘ぎに変化した。
「!っ!っ!っ」
どうやらアケミは本当に悔しかったらしく、崖っぷちで京次の責めに耐えている。
しかし、今度は京次が言葉という道具を使う番だ。
「俺は、今のアケミの顔が一番好きだぜ。」
結局、二人の言う通り、最終的に京次がアケミの膣に吐き出すまで、アケミは幾度となく意識を飛ばされ、足腰も立たなくされるのである。
「...京ちゃん? 雪之絵 真紀とは本当に再会していないの?」
「ああ。?何でだ?」
「だって、心配じゃない。私、SEXしか自信ないのに、私よりその人、ずっと上手いんだもの。」
すでに京次の方は身だしなみを整え、いつでもホテルを出れる体勢にあるが、アケミは体に力が入らないのか、今だ全裸でベットに横たわったままだ。
「本当に雪之絵 真紀とは会っていない。命(みこと)の事もあるし、俺としても連絡取りたいんだがな。」
「ふーん。」
気だるい余韻に浸るアケミは、少しだけ休もうと目を閉じた。
「京ちゃん。先に帰っていいよ。私もう少し休んでいるから。」
アケミは、仕事以外でも関係を持った男は数限りない。 こういった場合、人に見られるのを嫌がる男のために時間をズラしてホテルを出るのは珍しくなかった。
しかし、
「いや、待ってるからゆっくり休め。」
京次はベットの上に腰を下ろし、寝ているアケミに対し、無造作に布団をかけた。
ぼんやりと、そんな京次の行動を見上げていたアケミは、くすっ、と小さく笑って呟く。
「ライバル多いわけよね。あらためて納得。」
アケミは再び目蓋を閉じた。