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横から会話に入り込んだ、この男。 名前を 高森 夕矢(たかもり ゆうや)と言い、命達のクラスメートである。
「そーでしょっ!?パパ最高なのよ!よく分かってるじゃん!!」
思わぬ所からの加勢に喜ぶ命に対し、タケ子はやぶ睨みの目を高森に向ける。
「そーお?なんか、命のおとーさんって、顔だけって気がするけど?その顔にしたって、高森の方が良いし。」
タケ子の呟きに、カズ子も肯いて見せた。 この二人の京次へのイメージは、喧嘩を金で解決する大人でしかない。
「とんでもない。京次さんは僕が一番尊敬している人ですよ。」
そう言ったのは、タケ子に食ってかかろうとした命ではなく、高森夕矢だった。
「へえ...」
驚いたのは、命に限らず、タケ子とカズ子も同じだ。
命以外の女の子達にとって、高森 夕矢こそ、男としてパーフェクトな存在だった。
女と見まがう整った顔立ちに、中学生の年齢でありながら、成人男子の平均身長をはるかに超える細身の身長。
そして、学業において特待生の地位を持ち、その上、子供の頃から始めた”空手”でも全国に名を轟かす有名選手だった。
才色兼備、文武両道。 さらに、男女分け隔て無い明るくて気さくな性格。
男からすれば、並んで立つ事すら憚られる存在。 女にとっては、完全無欠の高嶺の花であった。
「この世に、あんな男いるの?」 これが、初めてタケ子とカズ子が高森夕矢を知った時の第一声である。
「そういえばさ、高森ってパパの通ってる空手道場の門下生だよね?」 思い出した様に命が言う。
京次は、高校在学中、素行の悪さから破門された空手道場に再び通うようになった。 理由は、雪之絵真紀に負けたからなのだが、命はその事を知らない。
高森は、笑顔を命に向けて肯いた。
「はい。それどころか、京次さんは僕の先生なんですよ。」
命も、京次から聞いた事かあった。一人、才能のある中学生がいると。
「ふーん?それじゃ命のパパさんって、けっこー強いんだ?」
「強いなんてもんじゃありませんよ?僕では今だに触れもしません。」
高森の口から、次々と驚くべき言葉が述べられる。 学生空手の全国区が触れないとは、どれほどの強さなのか、タケ子とカズ子には想像も出来ない。
そんな中、触る事の出来なかった一人である命が、嬉しそうに、「うん、うん、」と肯いていた。
「で、一体何の話です?京次さんがどかしたんですか?」