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かつて暴力団予備軍養成所とまで酷評された、昔は、皆月京次も通った中学校。
しかし、雪之絵 命が通う現在、十年以上の年月は、全ての悪評を腐蝕させ、文武両道の有名な進学校に変えていた。
見た目も昔の面影はなく、落書きだらけの壁は赤いレンガ一面のオシャレな校舎に立て替えられている。
「だからーっ、何か良い手はないかって聞いてるのっ!!」
命は現在、中学三年生だが、エスカレーター式の学校なので受験の心配はない。 他校の受験生を尻目に、命に限らず、本校の三年生話題は、目覚めた異性への感心ばかりだ。
騒ぐ命に、冷めた対応のタケ子、それを可笑しそうに見ているカズ子の三人は、三者三様いつもこんな感じだ。
「良い手って何の?」
「だからーっ、パパとねんごろになる方法!」
教室の中が静まり返る。 この時ばかりはカズ子の笑みも凍り付いた。
「ね、ねんごろって...」
「そーなのよぅ。最近、パパ隙がないのよぅ。」 しくしくと、嘘泣きして見せる命。
命の異性に対する興味が、自分自身に向いている事を知った京次は、それ以降、命に対して一線引く様になった。
具体的には、一緒に寝る時、命が眠りにつくまで京次は起きているし、風呂にいたっては、命が電話などの用事の最中にすましてしまう始末だ。
原因は、命が力ずくでキスしようとしたからなのだが、命はこりていない。
「あんたねぇ。オカシーよっ、絶対。 私、いくらお父さん好きでも、そんな風には思わないよ?」
「そりゃー、うちのパパ、タケ子の駄目オヤジとは違うし。」
「あのねぇ。」