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また、ある年の始業式。
「いってきまーーすっ!!」
朝の一連混乱行事をこなした命が、赤いランドセルを持って廊下を走る。 俺の出勤時間は、もう少し後だ。
「命っ、ちょっと待て。」 ちょうど、命が玄関で靴を履いている時、俺は一つ思い出して声をかけた。
「なーに?パパ。」
たまに俺は、命と同じ時間に出勤する事があるが、今、声をかけたのも、そのためだと思ったらしい命が、嬉しそうにしている。
俺が声をかけたのは全然違う理由なのだが、命にとっては、それより嬉しい理由のはずだ。
「お前の友達とか、携帯電話かPHS持ってるだろ?お前にも買ってやろうか?」
命の表情が、一段と明るくなった。
しかし、何か言おうとした命だったが、すぐに口篭もると、目を逸らして考え込んだ。
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「ねえ、たしかパパって携帯電話キライだったよね?」
「ああ?まあな?それがどうかしたか?」
「おっ、おい!?」
命は俺が呼び止める前に、「いってきまーーすっ。」と一声上げて玄関から飛び出して行った。
これまでの事も含めて、思った。
命は、いつも、俺に気を使っている。